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MSX物語①わが青春のMSX・MSXFAN最終号
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1995年MSX・FAN最終号が送られてきたのは暑い夏の日のことだった。
休刊予告がされていたためか、来るべき時が来たという比較的冷めた感覚で封を切ったような記憶がある。
内容は熱気と惜別とが凝縮された「MSX・FANという物語」を締めくくるに相応しいものだった。
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一通り目を通し付録ディスクの中身を確認していると雨が降り始めた。
「しょうがねえな」
ロードワークの時間だが、もう少し時間をつぶさないといけない。僕は大好きなゆじさんの曲をかけることにした。
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ディスクのシーク音が終わるとMSXから切ない旋律が流れてきた。
僕の愛機HiTBiT HB-F1XDJ はコンデンサの調子が悪く、FM音源音がかすれていた。それはまるでMSXが泣いているよう・・・
「本当に終わっちまったんだな」
ふと画面を見ると曲名が記されていた。
「ずっとこのままだと思ってた」
☆僕の聞いたゆじさんの音楽が流れます、是非お聞きください🥹
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「そうか、もうあの頃には戻れないのか。」
1984年のナイコン時代からの11年間の想い出が走馬灯のように脳裏によぎる。
友達のような存在だったMSX。そして同世代のMSXFAN読者たち。
彼らとは一度も顔を合わせたことはないが、確かにいつも僕の傍にいてくれた友達だったのだ。
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MSX・FANの消滅はもう彼らと二度と会えないことを意味していた。
僕の目から涙が溢れてきた。
何故?もう心の整理はついていた筈なのに・・・
友達を失うことがこんなに辛いことであることに、僕は生まれて初めて気が付いた。
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最終号の表紙。遠くを見つめる少年たちの眼差は「何か」を僕に強烈に訴えていた。
そうだ、もう僕は旅立たねばならないんだ。あの眼差しの先にある『どこか』へ・・・
曲が終わるころ、いつの間にか雨が止んでいた。
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ロードワークの時間だ、ウオークマンにお気に入りのMSXのサウンドテープをセットする。
外に出ると、そこには満天の星が広がっていた。
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MSX物語連載中!
懐かしいMSXというレトロパソコンを中心に、当時のパソコン少年の思い出をちょっとした物語風にしています。
ナイコン時代の84年からMSXFANの休刊の95年まで、ポンコツMSXユーザーの視点で当時のレトロパソコンやゲームについて呟けたらと思っています。