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【灰皿を盗む人】

ここ数日、灰皿がどんどん減っていくことがわかった。最初は誰かが捨てたりしてるのかと思ったが、明らかに減りすぎている。

この店の灰皿はアルミでできているので、そうそう壊れることはない。となると明らかにおかしい。

私は冗談半分で「誰か盗んでいるのでは?」と他のスタッフに言ったが鼻で笑われた。私も正直鼻で笑いたかったが、『ありえないなんてことはありえない』というのがこのネットカフェなのだ。
 
鼻で笑われようが、私は注意深く、灰皿置き場を監視することにした。すると……いた。いたのだ! 灰皿をボストンバックにガバガバ入れている人物が。歳は60過ぎで、小柄な男性だった。
 
私は急いで、その人物の元まで駆け出した。
 
私「ちょっと! なにしてんですか!」

客「あ、すいません」ヒョイヒョイヒョイヒョイとボストンバックに入っていた灰皿を元の場所に戻す。そういう問題じゃねぇ……。

私「いや、やめてください。そして今すぐ出てってください」

そう私が注意すると、客は素直に従った。ただここで怒りとは別に、好奇心が湧いてしまった。そもそもなんで灰皿を盗んだ? 戦時中なら鉄でも溶かして、弾にでもするのだが、このアルミの灰皿を盗んでいったいなんとするのだ……。

店を去ろうとする男に私は聞いてしまった。

私「なんで盗んだのですか?」

そう言うと男は喜々とした顔で

客「灰皿を売るのです」

と、まるで羅生門の老婆みたいなことを言った。

私は色々聞きたがったが、この言葉と男の喜びと狂気が混じった顔に気をとられ、それ以上質問がでなかった。だが、なんとかして何か言葉を返したくて、つい出た言葉が

私「灰皿は……売ってはいけないのです!」
とだけしか返せなかった。
 
 
もしかしたら、空き缶を回収するところがあるように、灰皿を回収する場所があるのかもしれない。だが、自分にはわからないことだった。それから灰皿が盗まれることはなくなった。


どうでもいいが、レンタル品のブランケットもよく盗まれる。主に冬に盗まれる。

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ネカフェの闇
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