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【待って!】

仮に私の名前を山田としよう。何故名前を書いたかは置いといて。日記を書く。

ある日のこと。人に話しかける客が来た。
「いい髪形ですね」とか「そのアクセサリーどこで買ったの?」とか店内で聞いてくる。
これでも恐怖なのだが、恐怖レベルとしては低い。

もちろん、レジで接客中にも、店員に話しかけるのだが、私はこの女性が気持ち悪かった。というのも気に入られているのかなんなのかわからないが、私がいない日でも「あの人(私のこと)今日はいないんですか? 次はいつくるんですか?」と聞いているのだ。

なので、話しかけられないように避けていたし、レジの時は彼女が来たらバックヤードに引っ込むようにしていた。
店内清掃時もできる限り、無視するように通り過ぎる。すると

「待って! 山田さん」と声をかけられた。そして「こんにちは」と言ってくる。

私はこの客と一回も話したことがない。名前を憶えられたのだ。いつのまにか。私はこれ以降速攻でネームプレートを投げ捨てたのだが、もう覚えられてしまったので意味のない行為だ。
ただそれほどまでに感情的になっていた。

それはそれとして、ある日のこと、この客に「パソコンのキーボードが調子悪い」と言われたので、座敷タイプのブースを見に行くことに。

私の店はキーボードはスライドテーブルに置いてあり、一度テーブルを引かないとキーボードが出てこない仕組みになっている。

私がスライドを引くと、何かがごとっと落ちた。手にたくさんの毛のような感触が降れ、腕を伝いながら落ちた。

それはカツラだった。髪の毛の塊が私の腕に触れて、膝に落ちたのだ。

言っておくがこの客は剥げていない。だからこそ油断した。確かに最近、髪の色が変わったような気はしたが、だがしかし。

恐怖とあまりの不快さに言葉が出なかった。その感情を引きずったまま違う席に移動させた。
「ありがとう山田さん」と一言言われて。


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