伊坂芳太良の世界

先日から俄然関心の湧いてきたイラストレーターの伊坂芳太良。

古書で買い求めた『伊坂芳太良の世界』に、1969年の作品『タウンゼント館』の全ページのテキストとイラストが小さく収録されていて、その世界観に嵌りこんでしまっています。自らの性の衰えに苦悩しながら、親から引き継いだ館で宿泊客の行為を覗き見る主人公。少し焦点の定まらない一人娘の表情。決して許されぬ悲劇の結末。日暮真三による文章はもちろんですが、伊坂の絵の妖しくエロティックな魅力に引き込まれます。

エドワーズという服飾ブランドの広告アートワークを手がけたということで、いちどXでつぶやいたとき洋服の好きな方々から反応をいただきましたが、私は子供の頃に読んだ彼の絵による『ヘンゼルとグレーテル』が心底怖かったのを覚えています。

偶然にも、1970年の9月はじめに私が生まれた頃、時代の寵児だった伊坂は42歳で病に倒れ早逝しています。その後もご健在だったら、横尾忠則・宇野亞喜良と並ぶ御三家として称されていたことでしょう(訃報を知らせた新聞記事の見出しからも分かります)。

『タウンゼント館』は古書ではかなり高値になっていて、おそらく私が手にすることはないと思いますが、せめて今回手に入れた『伊坂芳太良の世界』は繰り返し頁をめくりましょう。その華麗な絵柄と全体に漂う不穏な空気、美しい線で描かれるダンディズムやエロティシズムに再会して、また違う意味で50代の私は、ぞわぞわするのです。

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