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現役カウンセラーによる、宮野志保/灰原哀の心理的考察~アタッチメント編~

ごきげんよう。欲しいものなら自力で作る、天下無敵のファムファタール!シアンです♡

こちらの記事を執筆してから、早くも1年が経ちました。

昨年は灰原が「100億の女」になりましたが、今年の映画「100万ドルの五稜星(みちしるべ)」はなんと興行収入150億円を突破!連載開始から30年、名探偵コナンの勢いは増すばかりです。

今回は、物心ついた頃からの生粋の灰原ファンであり、現職の心理士であるわたし、シアンが、灰原哀/宮野志保を心理学的な観点から紐解くことを試みます。
※筆者はコミックス、アニメ共に追っていますが、何しろ100巻を超える大作。完璧に網羅できているわけではないかと思います。抜けている点、間違っている点がありましたら、遠慮なくコメントにてご指摘いただけましたら幸いです。


宮野志保/灰原哀の生育歴

まず、宮野志保/灰原哀のこれまでの人生を簡単にまとめます。
・18年前、宮野厚司・エレーナ夫妻の間に、明美の妹として生まれる。
・生まれてすぐに、火災により両親と死別。
・幼い頃から黒の組織の中で育つ。
・幼少期からIQが高く、アメリカ・ボストンに留学させられる。東洋系の顔立ちであることからいじめに遭う。
・帰国後、コードネーム「シェリー」として、例の薬「アポトキシン4869」の開発を行う。
・姉とは組織の監視下で、たまにしか会えない。
・組織幹部、ジンによって姉を殺される。
・姉を殺されたことから組織に反抗。薬の研究を中断。そのことによりガス室に閉じ込められ、自殺するために隠し持っていたアポトキシン4869を飲んだところ、幼児化してしまう。体が小さくなったことで、ガス室のダストシュートから脱出することができた。
・自分と同じく幼児化した可能性のある工藤新一に助けを求めるため、工藤邸に向かう。そこで阿笠博士に拾われ、現在は灰原哀と名乗り、阿笠邸に住み、コナンと同じく帝丹小学校1年生として過ごしている。

宮野志保/灰原哀の家族構成

彼女の家族構成を「ジェノグラム」という、心理学領域で使われる家系図にまとめました。二重丸がクライエント、この場合は宮野志保になります。
ただ、これでは見慣れない方にはわかりにくいと思いますので、2枚目に解説付きのジェノグラムを載せます。

□は男性、○は女性。×印は故人。
同居している人たちは点線で囲んでいます

ここから宮野志保の成育歴や経験による心理学的考察を行っていきます。
わたしの専門は「アタッチメント(愛着)」という、家族など親しい相手との絆が人格に影響を及ぼすという考え方です。
上の家系図から分かるように、宮野志保は厳密には天涯孤独の身ではなく、赤井家と血縁関係があります。しかし、宮野志保本人は今のところそれを知らないので、本稿ではあくまで「宮野家」と志保の関係性に焦点を当てて考察を行います。

アタッチメント(愛着)とは

先ほども少し触れましたが、心理学におけるアタッチメント(愛着)とは、他人に対して築く特別の情緒的な結びつき、特に幼児期までの子どもと養育者との間に形成される情緒的な結びつきのことを指します。1950年代にボウルビィという学者が提唱した理論です。

第二次世界大戦後、幼児期に親から離され、施設に入所した子どもに、情緒的な障害や身体的な発育の遅れなどが見られることが問題となりました(「ホスピタリズム」と呼ばれます)。
このことから、愛する家族から引き離されること、特定の養育者がおらず、不特定の大人たちに育てられることが、子どもの成長に悪影響を及ぼすのではないかと考えられるようになったのです。

ちなみに、たとえ家族と引き離されることなく育てられたとしても、家族の特性や接し方によって、安定した愛着が築けない場合もあります。

なぜ愛着形成が大切なのか

・特定の養育者に受け入れられ、甘えることができるという経験は、ひいては人間一般への基本的な信頼感につながります。

・小さな子どもが不安を感じたとき、お母さんに抱きついて気持ちを落ち着ける様子をイメージしてみてください。一般的にとてもよく見られる光景だと思います。これは専門的には、「子どもが養育者を『安全基地』と見做している」と表現されます。何かあっても「安全基地」があるから大丈夫、安心だ。そうして子どもは、養育者に甘えたり、時には少し離れて友達と遊ぶことに挑戦したりしながら、すくすくと成長していくのです。

・子どもの頃に形成された愛着のスタイルは、成長して大人になってからも、対人関係に影響することがあります。

愛着障害のこと

愛着障害の分類や名前は近年少し変わったのですが、すこし前の名前のほうが分かりやすいので、今回はこちらを使って説明します。

愛着障害は「抑制性愛着障害」「脱抑制性愛着障害」の二種類に分かれます。

抑制性愛着障害」は、人に対して過度の警戒や恐れがあり、人に頼るのが苦手、自己肯定感が低いなどの特徴があります。

逆に「脱抑制性愛着障害」は、人との関わり方を調整することができず、過度になれなれしくなってしまうなどの特徴があります。わたしも実際、実習で児童養護施設に行った際、初対面の子に抱きしめられて「大好き!」と言われたことがあります。

宮野志保/灰原哀とアタッチメント

説明が大変長くなってしまいましたが、この理論に宮野志保を当てはめて考えてみましょう。
宮野志保は生後まもなく両親と死別、姉とも離れて暮らしています。具体的に、組織でどのように育てられたかは想像するしかありませんが、あの冷酷な組織で、特定の養育者と安定した愛着を築くことができたとは思えません。まさかジンが甲斐甲斐しく子育てをしていたなんてことはないでしょうし…笑
下手な我儘を言えば自分も姉も殺されかねない環境では、愛着どころではないですよね。

実際、初期の灰原哀の様子は、先ほど述べた「抑制性愛着障害」の特徴とよく似ています。わたしは医者ではないので診断はできませんし、彼女の場合、愛着以外にもたくさんの複雑な要因が絡んでいるでしょうから、断定はできませんが、アタッチメント理論に則ると、抑制性愛着障害の可能性は否定できないのではないでしょうか。

ただ、姉の宮野明美とは、なかなか会えない間柄であるにもかかわらず、とても親密な様子でした。また、母・エレーナが志保に残したメッセージ入りのカセットテープを嬉しそうに聴いている描写もあります。特殊で過酷な環境で孤独に闘ってきた彼女にとって、家族は、離れていても、大切な心の支えなのだと思います。
これはただの灰原オタクとしての願望ですが、毒薬を生み出してしまった罪の意識に苛まれ続けている彼女には、自分は生まれてきてよかったんだと思える瞬間が必要だと思います。彼女にとって、そう思うための鍵が、家族なのかもしれません。母の記憶がなくても、姉を喪っても、その人たちを想い、愛することができるのは、宮野志保の力ですよね。

宮野志保/灰原哀が形成していく愛着

ここまで述べてきたように、愛着は基本的には幼少期の養育者とのあいだで形成されるものです。しかし、幼少期に運悪くそれがうまくいかなかったからといって、もう修復不可能というわけではありません。
幼少期を過ぎてしまっても、「安心できる環境」「心優しい、養育者に代わる特定の存在との情緒的交流」を得ることで、安定した愛着をはぐくむことができると言われています。
まだまだ組織に狙われている状況、まったく安心はできませんが…少年探偵団とも打ち解け、推しができ、江戸川くんが守ってくれて。誰にも心を開けず、無表情だった彼女が、あんなに可愛らしい年相応の女の子になりました。CVの林原めぐみさんがおっしゃっていた「イルカセラピー」は言い得て妙。
彼女の人生の中では、いまが一番安心できる環境なのかな、と思います。どうか、早く心から安心できる日が訪れますように。

そして、「心優しい、養育者に代わる特定の存在」。これはもう、ばっちり阿笠博士が担ってくれていますね。志保は初期から、自分を拾ってくれた博士に恩を感じている旨を語っていますし、博士も、映画「黒鉄の魚影」のプレストーリーで灰原を「大切な家族」と呼んでくれていました。

幼児化したことが彼女にとって幸せなことだったかどうかは分かりません。ただ、宮野志保は、灰原哀として幼少期を生き直すことで、愛着の形成に成功したのではないでしょうか。


おわりに/次回予告

今回は「名探偵コナン」の宮野志保/灰原哀について、アタッチメントの観点から考察を行いました。ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
実は、アタッチメント以外にも、PTSDや、大切な人を失った際の心の動きなど、様々な観点で彼女を考察することは可能で、いろいろ準備していたのですが…あまりに長くなってしまったので、今回は一旦、「アタッチメント編」ということでまとめさせていただきました。そう遠くないうちに、続きを執筆できたらと思いますので、そのときはまた、よろしければお付き合いくださいませ。

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