「コミュニティ主導の人道支援のあり方」を考える|CLIP annual workshop 2024に参加してきました
2024年3月11日、フィリピンの首都マニラから車で5時間の避暑地バギオでCommunity-Led Innovation Partnership (CLIP)の年次ワークショップが開催されました。日本を含む7か国から30名以上の関係者が集まり、今年で5年目となるCLIPの進捗や成果を一週間かけて話し合いました。CWS Japanは国際団体であるADRRNのメンバーとして参加しました。
普段はオンラインでしか会えない仲間と直接話せることは参加者にとって何よりのご褒美で、フィリピンにいるとは思えないほど涼しいバギオで朝夕に食事や散歩をしたり、イノベーションプロジェクトを実施しているコミュニティを訪問したりとワークショップだけではない濃密な時間を過ごしました。こうした交流を通じて、仕事の関係性を超えて友情を深めるとともに、パートナーシップの重要性を確認する貴重な時間となりました。
今回はそんなワークショップから、特にCLIPのテーマでもあるコミュニティ主導の人道支援のあり方について話し合われたことを報告します。
人道支援における脱植民地化の流れとコミュニティ主導の防災・災害対応の重要性
2016年に開催された世界人道サミットを契機に、欧米主導の植民地主義的な人道支援のあり方を変えることにさまざまな機関が取り組みを進めています。CLIPはそうした取り組みの一環で、現行の人道支援は被災者や災害リスクの高いコミュニティの声を反映していないと感じてきたいくつかの団体が立ち上げたパートナーシップです。
CLIPは英国政府の支援を受けて2020-2025年の4年間のプログラムとして実施しており、コミュニティが直面する人道的な課題に対して自ら優先ニーズを特定し、新しい解決策を見出して試行することを支援するとともに、人道支援業界全体がこうした取り組みを主流化するよう働きかける活動を行っています。
今回実施したワークショップは、CLIPのプログラムを実施する4か国(グアテマラ、インドネシア、フィリピン、南スーダン)の実施団体(ASECSA、YEU、CDP、Titi Foundation)と、グローバルレベルでそれら実施団体の活動を支える3つの国際団体(ADRRN、Elrha、START Network)のほか、ワークショップのセッションを担当するインドの2団体(STS Global、Words, Rhythms & Images)、さらにフィリピンでイノベーションプロジェクトを実施する2団体(TWA、PTWO)が加わり、コミュニティから国際団体まで全く異なる背景の計11団体が同じテーブルで話し合いました。
言語もそれぞれ異なるので時には2人の通訳を介した会話になりますが、それでも皆、集中力を維持して発言者の話に聞き入ります。CLIPの特徴の一つはさまざまなレベルで自発的に学び合いが進むことですが、それが可能なのは上述のように同じ課題意識や志を持った仲間だということをお互いが認識しているからなのだと思います。
今年のワークショップでは、特に
『事業成長』の再定義(Reimagining Scaling)
コミュニティのなかにある知恵の主流化(Mainstreaming Local and Indigenous Knowledge)
CLIPの事業継続戦略(CLIP beyond 2025 and sustainability strategy)
といったテーマについてセッションを実施し、パートナー間で議論を深めました。
「事業成長」は必要?
人道支援に関するイノベーションの領域では、長らくシリコンバレーのスタートアップ型の事業拡大が前提とされてきましたが、最近のCLIPでは、コミュニティ主導のイノベーションを考えるとき、必ずしも事業規模の拡大を求めるのではなく、コミュニティにとってより意味のある事業成長を定義することが大切なのではという意見が増えてきました。そこで、セッションの一つでは、コミュニティの文脈に沿った事業成長やそのための支援を国レベルの実施団体はどう捉えているのかを話し合いました。
実施団体からは、コミュニティは地方政府などから支援を受けることに慣れており、短期的なプロセスを管理することはできるが、中長期的な視点で事業を管理する経験が少ないこと、国や地域によっては政府からの支援が非常に少ないなかで成長は緩やかにならざるを得ないこと、今ある問題に対処できるだけでも大きな成果であることなど、さまざまな意見が共有されました。
こうした状況においてコミュニティが自立的に事業を管理し成長させるためには、キャパシティを高めるためのさまざまな支援が必要であること、また事業を通じたコミュニティの意識や人間関係の変化を捉え、新しい挑戦を後押しするような支援が有効だと思うという意見も出ました。
伝統的な知恵と科学的なアプローチはどうしたら共存できる?
近年、防災・減災においては災害の予兆を早期に察知する方法や水源を守るための言い伝えなど、先祖代々のさまざまな知恵が重要であることが見直されている一方で、こうした伝統的な知恵はコミュニティ以外の関係者には理解されにくいために、周縁化されたり、若い世代に伝わらず埋もれてしまうという課題があります。
こうした問題を踏まえ、ワークショップでは伝統的な知恵と科学的な検証方法を統合することで、Local AdaptationやコミュニティレベルでのAnticipatory Actionなど、最近注目されているアプローチをより効果的なものにする可能性について議論しました。
参加者からは、伝統的な知恵をより科学的に説明することで地方政府を含めたより多くの関係者の理解や協力を得られることについて、実施団体としてもサポートしていきたいという声や、コミュニティでは実証されているものの科学的には説明できない伝統的な知恵をどのように外部に伝えていけるのか、など、多くの問いが生まれました。
ワークショップの成果と最終年度に向けた課題
CLIPはこれまでに4か国で100件近くのコミュニティ主導のイノベーションプロジェクトを支援しています。ワークショップでは各国の実施団体によるプログラムレベルでの学びが共有され、コミュニティへの支援をより効果的に行うためのアドバイスが交わされました。
こうしたアドバイスは、各国のプログラムの改善をスピードアップする上で非常に重要であることが過去のワークショップから分かっています。また、気候変動適応型の農業や洪水の早期警戒など、プロジェクトレベルでもノウハウを共有すべきテーマも明らかとなりました。すでに各国でコミュニティ間の学び合いは活性化し始めていますが、ネットワークの利点を最大化するためには、国を超えたプロジェクト間の学び合いをいかに活性化させるかが今後の課題として浮かび上がりました。
また、「『事業成長』の再定義」や「コミュニティのなかにある知恵の主流化」のセッションでの議論などから、プロジェクトに関わる組織や個人の成長やコミュニティの無形資産の活用など、数量化することが難しいCLIPのインパクトを外部に伝えるための方策も宿題となりました。
CWS Japanは、ADRRNのイノベーションを推進する団体として今回のワークショップの成果を持ち帰り、ほかの国際団体とともにプログラムの最終年度を今後につなげるためのアクションプランをつくります。また、アジア地域におけるコミュニティ主導の人道支援の流れを主流化するため、今後も活動と学びを発信していきたいと考えています。
(文:CWS Japanイノベーションコーディネーター 打田郁恵)