研究コミュニティー体験記~cvpaper.challengeのどこが良いの?~

はじめに

こんにちは!早稲田大学森島研究室博士1年の加藤義道と申します!

現在、「画像/動画生成AIの悪用防止」を主なテーマとして研究しています。
今年度のアドベントカレンダー12/6の担当及び、アドベントカレンダー企画運営の手伝いをさせていただいております。運営担当としても執筆者としても、アドベントカレンダー企画を盛り上げていけたらと思います!

私以外の執筆者が名のある研究者ばかりで大変恐縮なのですが、cvpaper.challengeに所属する一人の研究者として、~cvpaper.challengeのどこが良いの?~というテーマについてお伝えできればと思います!
本記事では、自分がcvpaper.challengeに所属することで大きな影響を与えた3つの体験、

  • 初めての国際学会採択

  • 博士進学

  • 産総研RA

をもとに、cvpaper.challengeが持つ魅力についてお伝えできればと思います。よろしくお願いします!


初めての国際学会採択

ここでは、私がcvpaper.challengeに所属してから、国際学会に投稿し採択されるまでの道のりを話そうと思います。

Q:なぜ、cvpaper.challengeに所属したのか?
A:研究室の先輩に誘われて良いと思ったから

はじめは、私が所属する森島研究室の先輩にあたる福原さん[^1]からの誘いでした。福原さんには、私が研究室に入ったばかりの学部4年生の後半あたりから研究のアドバイスをいただいていました。卒業論文を書き終えた後、これからどうしようかと考えていたところに、cvpaper.challengeに所属しメンターとしても活動していた福原さんから、cvpaper.challengeでの業務としてなら、より密な議論や研究のサポートができると誘われたため、cvpaper.challengeに入ることにしました。

[^1] 福原さんに関しては、先日の板摺さんの記事谷村さんの記事でも紹介されています!合わせて読んでいただけると嬉しいです!

Q:実際、入ってみてどうだったか?
A:とても有意義だったが、最初からもっと積極的に行動すればより良かったかも

正直に言うと、博士になるまでの活動については心残りがあります。自分がコミュニティーに入った時はコロナ禍ということもあり、ミーティングはほぼすべてオンラインでした。そのため、メンターやcvpaper.challengeに所属する多くの研究者たち[^2]とコミュニケーションをとる機会があまりなく、コミュニティーの強みを(自分が)十分に活かせていなかったように思います。

もちろんオンラインであっても、研究に関する様々なアドバイスをいただくことはできました。ただ、オンラインでのコミュニケーションは希薄になりがちで、レスポンスもどうしても遅くなってしまいます。対面でのコミュニケーションの重要性は、コロナ禍が明けてオフラインイベントに参加するようになってから強く感じました。とはいえ、コロナ禍においても、もう少し臆せずに、積極的にslackで意見発信すればよかったなと今では思っています。当時の自分もそうでしたが、入ったばかりのコミュニティーで自分からslackで発言するのは結構ハードルが高いと思います。ただcvpaper.challengeにおいては、積極的に発言する=熱意があるという印象ですし、色々な人からフィードバックをもらい名前も覚えてもらえて良いこと尽くしだと思います。cvpaper.challengeに興味がある方はぜひ積極的にアプローチしてみてください!

[^2] 様々な企業や大学の人が所属していて、人によって様々な研究スタイルがあると知ることができます!学生の学年も本当に幅広いです。後の「博士進学」の部分でも述べますが、普段ほとんど交流がない博士課程の学生(及び博士号取得者)と話せるのはかなり有意義だと思います!

Q:国際学会投稿までで何が大変だったか?
A:類似研究に対する差分づくりとリモートワークによるストレス

最初に投稿したのはNeurIPS workshopでした。しかし、諸々の事情があり採択とはなりませんでした。その後、CVPRへの投稿を視野に研究を進めていましたが、投稿〆切数週間前に、自分たちとほぼ同じ研究が出てしまい、そこから差分を作ることができず、投稿は断念してしまいました[^3]。そこから、何とか年度内にどこかに投稿したいと考え、選んだのがICIP2023でした。トップ会議に比べれば難易度は低いとされていますが、それでも投稿までの道のりは当時の私にとっては大変なものでした。

まず、研究の問題設定について、以前まで考えていたアイデアが先を越されてしまい、何とか差分を作ろうとした結果、提案手法を活用するシナリオがとても限定的なストーリーとなってしまいました。

また、研究室でのミーティングでも、研究のストーリーについて先輩や教授からほとんど納得してもらえず[^4]、自分の研究に対する自信がなくなっていき、モチベーションはどんどん下がっていきました。

加えて、先ほど述べたコロナ禍でのリモートワークの影響もあり、一人家で作業することが多く、一人で色々抱え込んでしまっていたというのも良くなかったかもしれません。この経験から言えることとしては、何か作業でつまずいたり、気分が落ち込んだりしたときは、(どんな手段でもよいので)なるべくすぐに人と話すことがすごく大事ということですね!

[^3] CVPR投稿については、投稿期限3日前くらい(?)までは、ほぼ同じ研究の論文を隅々まで読んだり、自分たちが実装した手法を色々改造して実験したりして何とか差分を出せないか試していたと思います。その時の自分の心境はあまり記憶にはないのですが、おそらく世界のレベルの高さとスピード感に軽く絶望しつつ、やれることはやらなくてはという使命感(というより思考停止の状態)で作業していたと思います(記憶があまりないのはそのせい?笑)。

[^4] よく指摘されたのは、「無い問題を解こうとしている」ということです。アイデアベースでストーリーを考えてしまったせいで、本来需要のない問題を無理やり作ってしまっているという印象だったのだと思います。これは論文採択後も学会で指摘されている点なので、教授や先輩方の意見は至極正しかったということですね。

Q:なぜ投稿できたのか&採択されたのか?
A:共著者からの熱い叱咤激励のおかげで諦めず最後まで頑張れたから

以上のような理由から、ICIP投稿期限の3週間くらい前に、共著者とのミーティングにて、投稿は難しいかもしれないという旨の話をしました。しかし、共著者全員[^5]から「あきらめずに投稿すべきだ」という旨の意見をいただきました。

理由としては、一度諦めてしまうと、その次もあきらめてしまう癖がついてしまうということや、勝負してみないと結果は分からないということを言われました。当時の私は、“諦めずに挑み続ける”ことの大事さを今一つ信じ切れていませんでしたが、今では正しいと確信しています。実際、共著者と協力して何とか書き上げた論文は、ICIP2023に採択[^6]され、さらにMIRUのショートオーラルにも採択されることとなり、大きな舞台でのオーラル発表と国際学会参加という、自分の人生にとって貴重な体験を得ることができました。

あの時、もし自分が一人だったらきっとあきらめていたと思います。そういう意味では、cvpaper.challengeに入ったことは、自分にとって一つの運命の分岐点だったのかもしれないと思っています。

[^5] 共著者としては、森島研究室の森島先生、福原さん、綱島さん、産総研の片岡さん、慶應義塾大学の五十川先生にサポートいただきました。改めて感謝を申し上げます。

[^6] 研究の内容としては、Deepfakeの悪用防止のため、画像にあらかじめ摂動を加えることで、Deepfakeモデルの出力の品質を著しく低下させ画像を保護するというものです。従来のノイズによる摂動付与では、強力な画像保護を実現しようとした際に、ノイズが大きくなりすぎて画像の品質が劣化してしまうという問題がありました。一方この研究では、顔加工アプリのように顔を幾何的に変形させることで、大きな摂動を加え強力な画像保護を実現しつつ、画像品質を維持することができるのではないかということを検証しました。興味のある方はこちらをご参照ください。

博士進学

ここでは、なぜ自分が博士課程に進学したかについて話したいと思います。

Q:なぜ博士課程進学を考えるようになったか?
A:博士課程経験者と話し、博士課程の解像度が上がったから

修士1年の時の私は、博士課程に行こうとは全く考えていませんでした。森島研究室の場合、毎年1人博士課程進学者が出れば良い方で、なおかつ先輩方は、研究力・体力・精神力ともに皆すごい方ばかりでした。B4のころの私は、先輩の実力に追いつける気がせず、何となく修士で卒業して就職すると思っていました。

しかし、cvpaper.challengeには博士課程の先輩や博士号取得者が多数在籍しており、博士課程というものをより身近に感じることが増えてきました。特に、海外では、研究者が博士号を取っているのが当たり前という話は印象に残っています。このような話を聞いていくうちに、自分の中で博士課程に進学することのハードルが下がっていったような気がします。

Q:最終的なきっかけは?
A:修士卒業で就職することに納得できなかったから

最終的に博士課程進学を決めたきっかけは就活だと思います。修士1年の5月頃から会社説明会などに参加して、色々な会社のインターンに参加してみようと考えていましたが、そもそもインターン選考で落とされ、会社を知る機会を得られなかったり、何とか選考を通っても、自分のイメージとのギャップがあったりということがあり、研究の時間を減らして自分は何をやっているのだろうかという思いが徐々に湧くようになりました。

周りを見てみると、何十社も選考を受けている人もいましたが、そこまでやろうと思うモチベーションは生まれませんでした(不遜すぎるかもしれませんが、むしろ企業の人が直接研究室に来た方が、より学生の素や強みが分かって良いのでは?採用活動は企業からお金をもらってやっていることだし、色々な研究を見ることができて楽しいのでは?)。

修士1年の終わりごろは、ICIP投稿準備で就活は全くやっていませんでした。しかしそのころはまだ、ICIP投稿が終わったら就活に集中しようと考えていました。そしてICIP投稿が終わった後、研究室のOB何人かに話を聞いて、良いと思った会社の選考を受けました。しかし現実は厳しく、会社の調査・見学・面接対策など様々な準備をしたにもかかわらず電話一本で終了となりました。

さすがにこの時は虚無感でしばらく動けませんでした。この時に、就職という選択肢から博士進学へ天秤が大きく傾いたと思います。このまま研究で大した実績がないまま[^7]就活を続けて、仮にどこかに就職できたとしても、そこで自分が幸せになる未来が見えませんでした。社会人博士という道も考えましたが、おそらく一度就職したら、忙しさでそんなことを考えている暇はなくなるだろうと思い、選択肢からは除外しました。このような理由があり、博士進学を現実的に考えるようになりました。

[^7] ICIPやMIRUの採択通知が来たのは、博士進学を決めた後でした。

Q:どうやって決断したか?
A:どっちがより後悔しないかを考えました

博士進学を考えるにあたり、教授、先輩方、そして両親とも相談しました。教授や先輩からは、重要なのは「覚悟」だと言われました。誰のせいにするでもなく、自分自身が選択して決めることが博士にとって必要だということです。両親からは、特別反対されることはありませんでした。私の家系は、博士課程はおろか、修士課程に行っている人すらいないため、博士進学という話は未知の領域だったと思います。そんな中、自分が決めた道なら止めないといわれたことにはとても感謝しています。思えば、自分の将来について両親とこれほど腹を割って話したのは、あの時が初めてだったかもしれません。

その夜、ずっと暗い部屋の中一人で瞑想しつつ考えていました。まず考えたのは、「自分は何がしたいのか?」ということです。これは自分が高校生くらいからずっと考えていて、いまだに答えが出ていない難しい問題です(おそらくこの問題に対する答えが明確な人が色々な意味で強いのだろうなと思っています)。この時も結局分からなかったのですが、少なくとも博士課程に行けば、この疑問についてより深く考えることができるのかなと思いました。またここでも、“諦めずに挑み続ける”という考えが浮かびました。最終的に、せっかくならやらずに後悔するよりやって後悔した方が良いだろうという気持ちになり、覚悟を決めたという感じですね。

当時のslackの記録が残っていたので載せたいと思います。日付が残っているのが恥ずかしいですが…

Q:実際博士課程に行ってどんな感じか?
A:大変だが、自分を成長させる機会が多くある

結果として、自分は博士課程進学という道を選びましたが、これが正解だったかどうかはまだ分かっていません。ただ、今のところ後悔はしていないです。研究室の同期は自分以外就職してしまったため少し寂しい気持ちもありますが、cvpaper.challengeには同じ学年の人もいるため孤独感はあまりないです。

一番の懸念点だった学費に関しても、ありがたいことに大学の博士支援プログラムに採択されたため、両親への負担を減らすことができました。また、博士課程に進学すると決めてから、自分の生活習慣を見直したり、自分が本当にやりたいことは何なのかについて考えたりするなど、自分と向き合う機会が増えた気がします。就職していたら、おそらく日々の忙しさでこのようなことを考える暇はなかったと思います。そして、博士課程に進学したことにより、産総研RAなど新しいチャンスをいただけるようになり、自分自身を成長させる機会が増えたことは間違いないと思います。

産総研RA

博士課程に進学してからの大きな変化として挙げられるのが、産業技術総合研究所(産総研)のリサーチアシスタント(RA)になったことです。ここでは、RAでの研究を通じて学んだことについて話していこうと思います。

Q:どうしてRAになったのか?
A:お誘いを受け、金銭面でも研究面でも良いと感じたから

去年から、cvpaper.challenge のコミュニティー内でRAのお話は伺っていたのですが、その時は学振や学会発表準備などいろいろ立て込んでいたというのもあり、結局うやむやになってしまいました。しかし、今年改めてお誘いを受け、RAでの研究が自分の成長につながるということや、RA勤務で給与がもらえるため生活面でも助かるということがあったため、RAとして働くことに決めました。

Q:実際RAになってみて大変?
A:大変だが、貴重な経験やチャンスをもらえるので頑張れそう

RAとしての業務は正直大変です。私の場合、RAでの研究テーマと研究室での研究テーマが異なるため、現在2つの研究を並行して行っている状況です。2つの研究の掛け持ちは大変だと先輩から事前に聞いてはいたのですが、まあとりあえずやってみようの精神でチャレンジしたところ、現在進行形でとても忙しい状況になっています[^8]。

さらに、2つの研究に加えて、以前やっていた研究の論文誌投稿やRA関連の突発的な業務も処理しなくてはいけないため、パンク寸前という状況です(笑)。とはいえ、その分いろいろなことにチャレンジできる機会[^9]ももらえるため、修行の一環と考えて頑張ろうと思っています。

[^8] 別の研究テーマの場合、やはり知識の吸収には時間がかかります。しかし、別の視点から研究していると、ふとした瞬間にもう一つのテーマに関するアイデアが浮かぶことがあるので、視野を広げるという点ではメリットがあると思います。

[^9] ちょうどこの記事が公開される少し前まで、ありがたいことに、オックスフォード大学VGG及びニュルンベルク工科大学(UTN) Fun AI Labでの研究発表の機会をいただけて、非常に貴重な体験をすることができました。この記事もこの海外出張の移動時間に書いていたりします。出張内容については詳しく書くと結構長くなりそうなのですが、簡潔にまとめると、日本の研究室との違いはやはり人材ということでしょうか。基本的に博士課程以上の人しかおらず、教師陣も世界的トップ研究者ばかりです。そういう意味では、国内の様々な研究者が集まるcvpaper.challengeは結構理にかなっているのかもしれないです。もっと密に交流できるように頻繁に交流イベントを開催できると良いのかなと思いました。

Q:RAで学んだことは?
A:友情・努力・勝利

1つ目は、対面でのコミュニケーションの重要性です。RAの勤務先は基本的につくばのため、東京から毎回通うのはなかなか大変です。Slackやzoomを活用することで、オンラインでコミュニケーションをとることができ、SSHを使えば遠隔でPCを操作することも可能です。そのため家で作業する方がはるかに楽ではあるのですが、やはり対面でほかの人と会うというのは重要だと思います。

例えば、coffee break[^10]などで他愛のない雑談をすることで、よりお互いの本音を知ることができるので、仲を深め気軽に研究の相談もできるようになりますし、何より研究でつらい時に気持ちを共有することもできます。研究室のミーティングは現在後輩がインターンで忙しいというのもありオンラインで行っているのですが、積極的に対面で会う機会も増やしていきたいと考えています。

2つ目は、自分の実力不足についてです。例えば論文サーベイに関して、ミーティングでサーベイ結果を発表する機会があるのですが、自分ではしっかり読んでいたつもりになっていても、メンターからの的確な質問に答えられず、自分がいかに何となく論文を読んでいたかを実感させられました。実装についても、自分が1日かけても分からなかった部分を、メンターがものの10分で解決してしまった時は心が折れそうになりました。この実力不足に関しては、マイナスにとらえているというよりむしろ今知れてよかったという思いです。実力に関しては、着実に量をこなすしかないとのことだったので、これも博士課程における修行の一環だと思って、“諦めずに挑み続ける”の精神で前向きに頑張ろうと思っています。

また体力面についても、トップ会議に通すような人は、学生・社会人に関わらず、皆有り余るほどの体力(バイタリティー)があります。自分も偉大な先輩方を見習って、最近ジムに通い始めました。それまではジムに行くことを何となく忌避していたのですが、いざ始めて見ると、決められた負荷で決められた回数種目をこなすというのはタスクとして非常にわかりやすく、意外と自分の性分に合っているような気がしています。ぜひこのまま継続して、無限に研究できる体を作りたいと思います!

[^10] 産総研RA(つくばセンター)ではcoffee breakの文化があり、15-16時くらいにRAやメンターと飲み物を片手に雑談の時間をとっています。リフレッシュの効果だけでなく、ふとした雑談から新しい研究アイデアが生まれることもあり、非常に有意義なものだと思っています。

終わりに

長くなりましたが、ここまでの内容は総じて、

諦めずに挑み続ける

ということが一番大事な核になっている気がします。

自分はまだまだ研究者としては未熟で、誇れるような成果も持ってはいませんが、同じ研究室やcvpaper.challengeに所属する偉大な先輩研究者たちに恥じないように、これからも、“諦めずに挑み続ける”ことを忘れずに、研究に精進していきたい所存です。

最後までご覧いただきありがとうございました!

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