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読破した本で2020年を振り返る

こちらはとうに授業が始まっているが、世間ではそろそろ授業だというところもある。ならば去年度の振り返りもまだ行ってよい筈であろう。2020年度に読破したもので面白かった本を紹介する。

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自省録/マルクスアウレリウスアントニヌス


西欧が誇る伝統の自己啓発本。業務の傍らで哲学を修めた賢人の言葉遣いはとても冷静で、肩書が乗せる言葉の重みが凄まじい。

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美しい星/三島由紀夫


人類の価値についてを問うた着眼点の面白いSF。途中のロマンスや、兄の先生探しといったありふれた描写はもちろん綺麗だし、宇宙人としての思考と人間としての思考の葛藤や、終盤の人類についての論争は興味深い。核戦争が起こる寸前まで来た時代に、天才三島が考えついた、人間の性質は読む価値あり。

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新唐詩選/吉川 幸次郎,桑原 武夫

漢詩入門書として最適。薄っぺらい癖して様々な詩人から選りすぐり、詩人の特徴を踏まえた漢詩を選んでいるので、詩人の特性をつかみつつ、色々な漢詩に触れることが出来る。

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息吹/テッド・チャン

理性と感情の両方に訴えかける驚異のSF短編集。一つ一つのテーマがそう遠くない未来を題材にしていて、それでいて題材をしっかり料理し、読者を形容しがたい境地に持っていく。全体的に読んでいて関心させられた。

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魍魎の匣/京極夏彦

分厚い系ホラーミステリー。他の本よりも分厚いぶん、余所よりも面白さがある。様々な知識に、登場人物の多さは勿論、話が色んな場面に変遷して読みごたえがあり、本筋の事件以外に、謎の独白、宗教に狂気、魍魎、匣といった不気味な要素が最初から散りばめられ、恐怖を与えてくる。暇で刺激が欲しい人は是非。

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ゲームの王国/小川哲

ゲームの性質について主眼を置いたダークSF。ポルポト政権下の悲惨な世界で花開いた天才同士の人間関係が行き着く先は面白い。SFのテーマ、綿密なベトナムに対する知識量、緊迫した駆け引きが読む手を進める。


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連続殺人鬼 カエル男/中里七山 

何もかもが恐ろしい一冊。次々と起きる殺人。被害者の無残な姿に、被害者に残された幼い手紙。見つからない証拠。ひときわ不気味さが飛びぬけていた。犯罪心理、異常者の心理、被害者の状態、更にはマスコミといった多様な分野の知識が豊富で読者に説得力を与え、恐ろしさを増長させる。

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蜜蜂と遠雷/恩田陸  

ピアノコンクール小説。題材にしにくいものを題材にしたにもかかわらず、楽しませてもらった。コンクールの現実、それぞれの思い、曲の表現。2つの賞を受賞した作品だけあって秀逸。特に音の表現が素晴らしくここまで音を文字で表現できるのかと驚愕した。参加者、採点者、観戦者…あらゆる人の思いが大会を経て変化していく様も見所。登場人物の誰もが推せるし、誰かを推しに据えて推すのも良い。最後が誤魔化されたように感じる点と、人間離れした天才達に納得が行くなら読んでもいい。


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異邦人/カミュ 

不思議な作品でした。葬式の翌日に遊びに行き、太陽が眩しいからと言う理由で殺人。一見訳の分からない行動も、主人公今を最も幸せにしようする思想が理解できると腑に落ちる。展開こそ不幸であるものの、そういう生き方もいいなと思う。1部終盤の描写が詩的で気に入った。2部終盤の描写がよく分からなかったので何度か読み込む必要を感じた。他の感想を読むと色々な解釈があるようで。それも名作の由来なのかも。

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職業としての政治/マックス・ウェーバー

誰が政治家としての資格を持ちうるのかを纏めた1冊。政治家が成り立つまでの経緯を端的に述べ、政治を論理的に検証し、政治が持ちうる課題を明らかにした上で何が必要か述べ、理論的である。哲学から考える政治家の理想像は新たな知見であった。抽象的な表現が多いものの文庫本で100p程度なので、挑みやすい。

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MMT現代貨幣理論とは何か/井上智洋  

増税反対派の論拠として、主流経済学と対極の存在である、現代貨幣理論(MMT)の概説について学べる1冊。理屈は難しくないし、分厚くないので読んでいて楽しい。6章ではMMT以外にも様々な見解を提示しており、理論に対する議論の余地が紹介されていて興味深い。


総まとめ

昨年度よりも推したい薄い本が増えた。頁数が少ない事は人に進めるうえで、大きな長所となるが、読者としてそれでいいのかという気がする。それから実用書も増えた。意識してそう言った本を手に取り、学びの多い本に出合えたは嬉しいもの。今年はバランスよく読めるといいな。

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