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カタツムリ‥涙を拭いてくれた先生
路瑠は、学校には行くが、教室の机の下に潜り込み、
じっとして動かない。
カタツムリの様に。
担任の先生が心配して、
教室の、先生の机の前に路瑠の席を設けてくれたけれど
『そこは、嫌や 』と、机に潜ったまま、教室の後ろに移動する
同級生が指を差して笑う声
路瑠はカタツムリそのものだった。
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『先生にとって、わたしは、厄介な生徒なのだろう…。』と感じながら
以前の様に、
天真爛漫には過ごせなかった。
休み時間になると、
今まで、椅子に座って、大人しくしていた生徒達が、
蜘蛛の子を散らす様に、ワラワラと動き出し、
思い思いのところに散って行く。
「良い天気なんだから、外で遊びなさいよ」と言う先生の声に
みんなは、校庭に出て、鬼ごっこやら、鉄棒やら、ドッジボールやらと
じゃれ合う様に遊んでいる。
伸び伸びとして子どもらしく。
路瑠は、
みんなの輪に入って遊びたい‥でも
みんなの様に無邪気に笑えなかった。
母がいない寂しさが
路瑠を殻に閉じ籠め、独りにさせている。
休み時間が辛かった。
路瑠は、教室で独り、本を読む。
友達に、無理な笑顔をしなくていいから…。
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それは、
路瑠が図工の宿題の提出が遅れて、
ひとり、図工の先生のところへ作品を持って行った時
路瑠はきっと、
遅れた言い訳をしながら、家の事情を話したのだろう。
話しながら、何だか、涙が出てきた。
「あれ‥なんだ‥なんで‥」
路瑠の目から溢れ出てくる涙が
止まらなかった‥しゃくり上げて泣いている。
路瑠は、話してなかった。
お母さんが居なくなったことを
先生は、路瑠の話を正面から聞き
先生の指でそっと涙を拭ってくれた。
やっと、感情を出して泣けた。
淋しい気持ちを受け止めてくれた、先生のおかげで‥。
「買い物に行ってくるね」と出掛けたっきり
帰って来ない母のこと、
弟は、幼すぎて、田舎でひとり預けられ
兄弟がバラバラに暮らしていること、
汚れて荒んだ家の中
心底、
路瑠の心は、淋しさで一杯なことを
全部、全部、出し切った‥。
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路瑠は、変わる。
人は、誰かに、受け止めてもらえると
安心して、自分らしくなれるもの
みんな、孤独を感じてる。
みんな、『私を見て』と、サインを出している。
たわいのないことで、お腹を抱えるほど、笑い合い。
時間を忘れるほど、おしゃべりをして、
手と手をつなぐように、友達と気持ちをつなげたい、
くたくたになるまで遊んだ夕方、
みんな、それぞれの家に帰る時間には、
路瑠も、
優しい誰かさんのところに帰りたい‥。
大人も子どもも、
独りぼっちでは、生きて行けない。
温かい温もりを求めている。
路瑠、
あなたは、大人になって保育園の先生になるんだよ。
今は、まだ、先の話しだけど、
路瑠が関わる子ども達の話をちゃんと聴いてね。
あの時の、
カタツムだった路瑠を
殻から出して、
涙を拭いてくれた先生の様に‥
第5話
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