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水は戻る‥母が帰ってきた。

鍋に水を張り火にかける。
水はやがて蒸発し、湯気となって空気中に漂い見えなくなる。
蒸発した湯気は理科の実験装置でもない限り、簡単には戻らない。

ある日お母さんが
「買い物に行ってくるね」と言ったきり
蒸発していなくなりました。

湯気となって空気中に漂い消えた水は、
蒸発したのだから戻らない。

幼い路瑠は『母に会いたい』と願いつつ‥
‥いつしか『会える』ことを諦めて…諦めて‥
心に蓋をして‥母がいない生活に慣れるようと
子どもながらに頑張って‥月日だけが過ました‥。

蒸発した水は空気中に漂って戻らない、戻らないはずなのに‥

母は戻ってきました‥

母は
どこに漂っていたのでしょう?
どうして暮らしていたのでしょう?

路瑠には母と父の事情はわかりません。
分からなくてもいいと思います。


母と父との約束だったのか、
母が戻ってからすぐに古いアパートから引っ越しました。

思い出はいっぱい詰まったアパートでしたが

空飛ぶGさん(ゴキブリ)や黒い砂糖壺(アリ)・白い大群(蛆虫)の家とは、
『さよなら。』しました。


新しい綺麗なアパート
懐かしい母、
路瑠と母の涙の再会…に

ならないのです…現実は。

感情が複雑すぎて、なかなか『お母さん』と呼べない
心が今までのことを怒っている。

口が曲がっても『お母さん』と呼ぶものかと‥


捻くれて、捻くれて、
しばらくは『ゆうこさん』と呼んでいました‥。

折角帰ってきた母も、子どもからのまさかの仕打ちに
辛かったことでしょう。

さすがに見兼ねた父にこっ酷く怒られ、

路瑠は母に辛かった感情をぶつけては、
泣いて
母も色々辛かったのか
母も泣いて
父も泣いて
みんなで泣いて

泣くことで、気持ちもだんだんと落ち着き
路瑠も最後はちゃんと『お母さん』と呼ぶことができました。


路瑠はその日、母の布団で寝ました。



布団の中で母が、ギュッと抱きしめてくれました。

路瑠はまた泣きました。
赤ん坊のように‥
母も一緒に布団の中で泣いてます。

本当にやれやれの家族です。


しばらくして
田舎に預けられていた弟も帰って来て、
久しぶりに離れ離れになっていた家族が一つになりました。


この春、
路瑠は小学校を転校することに

心配して見守って下さった温かい先生方とお別れするのは
とても淋しく、合唱団ではもっと歌いたかったけれど

そんな気持ちとうらはらに、

新しい小学校で出会う友達は、路瑠の過去を何も知らないお友達。

『お母さん帰ってきてよかったね』と言われるのは
正直しんどかった。

普通と違う家族‥。』
だけどわたしは『生まれ変わる』
誰も、わたしのことを知らない土地で

そう思うと胸がワクワクする

路瑠小学6年生
川崎での生活のはじまりです。

第6話 ↓ ちょこっとコラム ↓

当時のテレビアニメ番組で、『母をたずねて三千里』を放送していました。主人公マルコのが、出稼ぎに行った母の音信が途絶え心配になり、
母親を探す旅に出る物語。

主題歌は、

『はるか草原の、ひとつかみの雲が、

あてもなく彷徨い、飛んでく

山もなく谷もなく

何も見えはしない…

でもね、マルコ、お前は来たんだ、

アンデスに続くこの道を…♪』と続くのですが

当時の路瑠は、
マルコはあてもないのに母を探しに行って、
すごいなぁと思っておりました。

私も母に会う為に、マルコのように探しに行きたい、
けれど本当にあてもなく、その術も分からない、

今、記事を書きながら、
あてもなく彷徨っていたのは『ひとつかみの雲』の空模様のことだったと
気が付きました
(笑)

さて、
ところで父は、どうやって母を探し出したのか?…今だに謎です。

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