47才のキャンパスライフ 〜慶應一年生ミュージシャンの日々〜 33「中間試験!」
6月も中旬に入り、いくつかの授業で中間試験があった。
中間試験!
この年になってこんなワードを使うようになるなんて、去年までは思いもしなかった。30年前までは(改めて随分前だなぁ)なんの感興も持たなかったこの言葉も、今は何かウキウキとした響きに感じる。いやー!中間試験ですって、奥さん!
毎度の授業も楽しいけれど、試験はやはり何か「本番!」という感じがして、格別の趣きがある。というわけで今日は記念すべき初中間試験「ドイツ語」でのエピソードをお届けします。
一応試験範囲はできるだけ勉強してきたつもりではあるけれど、果たしてどれくらい出来るものなのか…。試験の注意事項が伝達された後、解答用紙に続いて問題用紙が配られる。試験時間は60分。しかし早々と出来ちゃった人は提出して退室して良いという事だった。こういうのでいち早く退室するのって憧れるよね。でも先生は同時に
「わからなくても、諦めないで粘ってくださいね。何か書いてあれば部分点をあげられるかもしれないので」
などと仰る。優しい先生なのである。そうかそういうものなのか。とにかく、ベストを尽くそうと初めての中間試験に取り掛かる。
ご存知のかたはご存知でしょうが、ドイツ語の文法というのは英語に比べて、活用や例外が多い。そして特に困るのが、二人称(英語で言うところのyouですね)に親称(du)と敬称(Sie)の二種類があることである。親しい間柄にはduを使い、そうでもない人にはSieを使うとのことだ。(そしてそれによって動詞や冠詞の活用も全部変わる!大変!)
僕が読んだ本によると、ドイツの方は関係が深まっていく過程のどこかの時点で
「今日から僕のことduで呼んでいいよ!」
と言うそうだ。そしてそれは同時に「だから僕も君のことをduで呼んでいいよね? duで呼び合う関係になろうよ!」いう意味を含んでいるらしい。
これってもし僕だったらなかなか言い出せない気がする。もし本当は嫌だったらどうしようとか思ってしまう。または酔っ払ってその場の勢いで「duで行こうぜ!」とか口走っちゃって、明くる朝起きたら
「うーん…。やっぱりまだまだSieやったな…」
なんて事にはならないのだろうか。なんて当面は起こるはずのないことの心配をしていたら、誰かが颯爽と答案を提出し、退室して行った。あー! それやりたかったなー!なんて思いながら改めて答案に集中する。僕だってもうほぼほぼ終わりかけなのである。あとは軽く見直して…
と解答を見直しはじめたら、あれ? これ違うやん? これも!と間違いを見つけまくってしまった。特に前述したduとSieの和訳間違いが多い。
duは「君」と、Sieは「あなた」と訳し分けるべきなのだが、僕は元々人間が丁寧に出来ているので(どこがだ)ついduも「あなた」と訳してしまいがちになる。とくに「君の」「君を」などにあたる「dein」や「dich」なんかは油断して見落としがちだ。しかし、ややこしいなぁ。そもそも「君」という言葉も場合によってはそれなりに敬意を含んだ言葉である。紛らわしい気がする。
なのでもういっそ、duは「君」ではなく、「チミ」だということにしよう。「あー、チミチミ!」のチミである。こうすれば「あなた」とはだいぶ距離が広がって、間違いにくくなるに違いない。du, dine, dir, dich は
チミが、チミの、チミに、チミを
である。見分けやすく…なったかな…?
なんてくだらない事を考えているうちに一人、また一人と答案を提出して退室していく。ああ、僕も早くそちらへ行きたい…のだけど、見直すたびに間違いが見つかって、もう自分のことを信用できない。こうなったらもう制限時間が来るまで、ゆっくりと見直し続けることにしよう。特にこの後予定があるわけでもないし。
この単語の活用にはウムラウトがついたっけ…?
この単語の複数形どのパターンだっけ…??
などと、わからない問題もぼやっとした記憶を手繰り寄せ、なんとか正解に辿り着こうとした。
終了時間間際、恐らく次の授業と為に教室に来た学生さんがなんだかドアの手前で怯んでいたけど、それくらいテスト中というのは並々ならぬ緊迫感があるものなのだろう。
というわけで時間になった。いやぁ、まあベストは尽くしたね! 清々しい気分である。さて、後ろから答案を前に回して、提出するのだろうと思って動きを待っていたら…、うん? 物音ひとつしない…。
まさか!?
と嫌な予感と共に振り返ったら、なんと!
教室に残っていたのは僕だけだった(笑)!
一番前の席に座っていたので後ろの様子が分からず、誰もいなくなっているのに気づかなかったのだ!
こ、これは恥ずかしい…! 優しい先生も途中から
「粘ってくださいなんて言わなきゃよかった…泣」
と後悔していたんじゃないだろうか。いや参ったねしかし。ドア前で怯んでいた学生達はテストの緊迫感ではなく、誰も居ないと思って入ろうとした教室にひとりでうんうん唸っている僕を見つけて怯んだのだ。そら怯むわ。巳年は諦めが悪いんですぅーと訳のわからない事を思いながら、謝りながら教室を後にした。
そんなほろ苦い(?)初中間試験の思い出でした。今度からは避けたいけれど、テスト中に振り向くわけにもいかないしね。困った。