島旅っていいよね
旅行というものは、有名な観光地に行って、なんかすごいとされているものを見て、その土地で美味しいとされているものを食べて、なんかそれなりに充実した時間を過ごすもの。
そんな固定観念を持っていた自分だったが、とある時期から、そんな一般化された旅行ではない旅に憧れを持つようになってしまった。
欧州一人旅の思い出
きっかけは、学生時代にした二週間の欧州一人旅だろうか。
パックツアーなどというものに申し込みせずに、自分で全ての行き先を決め、Airbnbを駆使し宿を、そして英語HPを斜め読みしながら交通手段を手配した。危うく電車乗り継ぎそうに間違えたり、泊まるはずの家が見つからず深夜の住宅街を徘徊してみたりなど、あの少々不便な旅の経験があってからというもの、旅をすることの目的について自分の中で変化があったように思える。
あの二週間は、一時の日常からの逃避・非日常の体験という単純な旅の経験ではなかった。知らない土地に繰り出していく高揚感と、その土地の歴史と文化に触れて自分の知見を広げたことに対する充足感。言語が半分くらいしか通じない中、この二つの合わせ技のおかげか、自分の経験の中でもトップレベルに素晴らしかったと思い返す記憶になったような気がする。
残念ながらコロナ禍で海外への渡航制限が起き、その後ロシアとウクライナの戦争でヨーロッパに飛ぶのにエライ時間が掛かったり、ついでに歴史的な円安といった外的な要因から、社会人になってから海外旅行はまだできていない。そりゃ行けるなら海外に旅行に行きたいけれど、最近の筆者的には、あの旅に匹敵するような旅の経験は、何も国外だけでしかできないものではないと思っている。
何せ、日本は東経120度から150度、北緯20度から45度に位置し、亜寒帯から亜熱帯までの気候を取り揃えている島国だ。ほんの少し足を伸ばすだけで、北緯35度、東経139度で見えていた世界とは異なるものが見えるというもの。
というわけで(というわけで?)最近の旅先選びの第一候補になりがちなのが、日本の離島だ。
島旅への憧れ
日本は島国、本州含め全ての島嶼(すげえ小さい岩みたいなのも含むはず)の数は、2024年現在国交省のデータによると14,125島となるらしい。途方もない数なので、もうちょっと詳しく見ると、その中で有人島は417に登るという。
小学校の地理の時間でも習ったような気がする話を一つ。日本の国土面積は大して大きくないが、排他的経済水域(EEZ)の面積が世界6位という数字を支えているのは、こうして日本近くに広がる離島があるお陰だ。このEEZの面積は、本土だけの場合の数字と比較するとおよそ2倍になるらしい(内閣府HP記載資料による)この話を深めていくと、どうしても海の治安維持の話に繋がっていくので、ちょっと今回は置いておいて。
離島への旅行、いわゆる島旅の何に自分は魅力を感じているんだろうか。
そもそもとして、離島というのは海という自然の壁によって隔絶された一種の孤立した世界だ。自然的な生物・生態系の観点からも、その土地の文化・歴史的な観点からも、外界からの影響を受けにくく、その土地の固有のものが育まれていることも少なくない。
動植物の話をすると、西表島のイリオモテヤマネコや、礼文島の高山植物などは有名だろうし、歴史・信仰・文化の話を考えると、江戸七島の流人の歴史や沖縄のミルク神信仰、離島ならではの染め織物なども挙げられる。
普通に都心で暮らしていると、どうしてもこういった島由来のものにパッタリと出会う確率というのは少ない。自分から訪れないと出会うことができないものが島にはある、というところに惹かれているといってもいいだろう。
冒険心をくすぐられるような見知らぬ島に訪れること、これまで触れて来なかった島固有の歴史と文化を知ることが、どうしても楽しいと思ってしまうのだ。
また、離島が本土のいわゆる観光地とは違う点として、島民の人たちの生活に近いところで旅ができるという点がある。島の規模にもよるが、チェーン店やコンビニが一切存在しないことは日常茶飯事。地元の商店で買い出しをしたり、地元の食堂で食事を取ることも多くある。リゾートホテルに泊まれば別だろうが、夕食を地元の居酒屋に繰り出していけば、島の人たちの会話を聞きながら、ちびちびとビールを飲むのも楽しい。
それと、拝観時間やら開館時間といったものを気にすることなく、のんびりとプランを決められるというのもいい。離島にも観光スポットはもちろんあるが『見るべきもの!』と称されるものは、本土の観光地に比べればそう多くない。「今回の旅は時間が足りなくて周りきれなかった」と嘆くことは少ないだろう。時間に追われることなくゆったりと旅をすることができることもあって、あせあせとしないのんびりとした特別な時間を過ごせる。
あとは、個人的に海の景色が好きということもあり、見渡す限りの青の視界に包まれることができる離島というのは、もう天国のような場所でもある。その上、空の美しさも素晴らしい。朝焼け、夕日、そして夜になれば(月夜でなく晴れていれば)満天の星空を見ることもできる。
行ってみた島旅の記録
本格的に島旅を考えるようになるまで、自分が行ったことがあった島は、横須賀の猿島や、三浦の城ヶ島くらいだった。(これ神奈川県民を白状してるようなもんだよね)横須賀の港から猿島は船で10分くらいだし、城ヶ島に至っては三浦半島から橋で繋がっている。淡路島や小豆島も修学旅行で訪れたような記憶があるが、滞在時間は非常に短かった。
とにかく、外洋に存在する離島には、これまで訪れたことがなかったのだ。
手始めに、初めての離島旅の目的地として選んだのは、伊豆諸島の大島だった。伊豆諸島は関東近郊の人間からすると結構メジャーな離島だと思う。なにせ、伊豆七島は東京都であり、島までのフェリーや高速船は港区の竹芝から出ている。なお、自分は神奈川県民なので、熱海から高速船に乗って向かった。ちなみに久里浜あたりからも高速船が出ていたり、調布から飛行機で飛べたりもするとか。
伊豆大島は「富士箱根伊豆国立公園」の中に属している火山島だ。島の中心にある三原山は火山活動が活発な山の一つで、近年では1986年に大噴火が起きており、全島民が一斉避難をした過去がある。日本で唯一砂漠と表記される「裏砂漠」が山頂付近にあったり、バームクーヘンのような地層切断面が島一周道路を走っていると見えたりと、地質学的に大変楽しい島だった。
島の名物はべっこう寿司。島とうがらしが使われた醤油に魚を漬け込んで、寿司として握られる。自分が食べた時は白身魚とマグロのどちらも味わって大変美味だった。椿も有名であり、次に訪れるのは開花時期の1月ごろがいいなぁと思っている次第だ。
次に訪れた離島は、同じく伊豆諸島の八丈島。羽田から全日空機で50分というアクセスの良さに惹かれた。なお、二つの山の麓に作られた八丈島空港は、山に挟まれている立地から、度々霧が発生したり強風が吹き付けたり、となかなか離発着が難しい空港だそう。(実際往路は視界不良で羽田に引き返す可能性があるとアナウンスがあった)
この島に訪れた一番の目的はダイビング。シュノーケリングではなく、酸素ボンベを背負ってやるスキューバダイビングだ。初めてだったので、もうそれはガッチガチで泳ぐことになり、怖くもあったのだが、ウミガメや魚の群れが目の前で泳いでいる光景を見れて素晴らしかった。宿は朝食のみつけていたので、夜ご飯の場所を島の中で色々と探し回ったのも楽しかった。
そして、三回目の島旅の行き先に選んだのは、沖縄の八重山地方、与那国島と石垣島だ。地味にこれが自分の初めての沖縄旅行。本島である那覇を先に行っておいた方がよかったかなと思ったのだが、自分の旅程では台風が2度本島付近に接近しており、那覇便は欠航も起きていたので、結果論だが八重山地方を選んだのは正解だった。
日本最西端の国境の島である与那国島では、レンタカーでとにかく島の隅々まで周り、果ての島を余すことなく楽しみ尽くした。石垣島ではもっぱら海に浸かって、シュノーケリングで魚と戯れていた。水深1メートルほどの場所で熱帯魚や珊瑚を観察できるとは、沖縄ってすごい。石垣のフェリーターミナルから高速船に乗ってお隣の竹富島にも足を伸ばし、水牛が引く牛車に乗って島を回りながら、伝統的な赤瓦の家屋を眺めることができたのは貴重な体験だった。
島はいいぞ!
行きたい島はまだまだある。
そもそもとして沖縄の本島にはまだ足を踏み入れていないし、対馬や佐渡島、淡路島といった比較的メジャーなところはまだだし、瀬戸内海には島がいっぱいあるって聞くし、長崎の五島列島、島根の隠岐島、最果ての印象のある小笠原なんかもいいし、花の楽園である北海道の礼文・利尻にも……。
自分の離島への興味は尽きず、島旅への想いも尽きない。
次はどの島に行こうか、どんな島旅をしようか、スマホに納められた写真を見返しながらウキウキしている。
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