機内で出会った最強のお客様
あれはアムステルダムから約13時間程かけてバンコクに着陸した夜明けだった。
私の目の前の席から1列後ろの窓側のお客様の頭に大量の水が落ちてきた。
通路側ではなく窓側ということで、頭上の手荷物入れから水が漏れたわけではないことがわかった。きっと客室天井に溜まった結露のせいだろう。それにしても私の10年の乗務歴でこんなに大量の水が降ってきたのは初めてだった。お茶碗1杯分くらいはあったのではないか。
基本的に客室乗務員もお客様も飛行機が着陸した後ブロックイン(駐機場に入りエンジンを切って停止)するまでは立ち上がってはいけないことになっている。もし何らかの事情で離席しお客様対応をする場合は、機長に離席許可を得なければならない。
私は直ぐに立ち上がって状況を確認しに行きたかったが、まずはお客様に大丈夫かと声をかけた。オランダ人かと思われる30代くらいの女性だった。金髪の髪が濡れているのがわかる。
13時間のフライトの後で疲れ切って通常でもイライラしてしまう状況に加え、大量の水が頭にかかってきたのだ。さぞお怒りだろう。説明や対応方法を頭の中で色々と考える。
だが、お客様は笑って、「I'm ok! It was a nice morning shower!」と言ったのだ。しかも一瞬の間も置かずに、無理ない自然な感じで。
返事が私の想像の逆をいきすぎて、数秒沈黙ができる。
「突然降ってきた大量の不快な水」を「モーニングシャワーが浴びれて良かった」と言ったのだ。
彼女の言葉を理解した後、私は直ぐにでも自分のシートベルトを外して拍手を送りたくなった。
機内でスタンディングオベーションが起こってもいいレベルの感動だった。
あれから、何か自分にとって都合の悪い事が起こるたびに、私は彼女の言葉を思い出す。
不都合なことが起きてもポジティブな変換さえできれば、イライラや不安を抑えて気持ちを落ち着かせることができる。
事実、起きてしまったことはもう仕方がないから、それをどう自分自身で受け入れてどう行動するか考えるしかないのだ。
最初は「最悪だ!」と思うことをどう瞬時にポジティブ変換するか。
大喜利する感覚で楽しみつつ、周りの人も楽しませることができたら最高の人生になりそうだと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?