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この場所が好きだった。
東京駅のほど近く、東京国際ホーラム内にあった『相田みつを美術館』が今年1月に閉館していた事を少し前に知った。
そこは私の好きな場所だった。「東京国際ホーラムの長期大規模修繕工事に伴う閉館」なのだそうだが、関東の片田舎から毎年少なくとも一度は訪れる、という事をもう何年も続けていたので非常に残念である。
美術館へは休日に電車に乗って出掛ける場合がほとんどだったが、前の職場では年に何回か都内で行われる会議があったので、会議のあと速攻で東京駅まで戻り、その足で美術館へ向かい、大急ぎでチケットを買って滑り込み、時間ギリギリまで鑑賞するという事をやっていた。
館内は、いつ行ってもチラホラとしか人がいなくて(もしかして、それも閉館の理由か?)ゆっくりじっくり作品と向かい合えるのも良かった。何度も訪れていると、不思議とその時の心情によって胸に響く作品が違ったりする。そして行けば必ず自分を少し元気にしてくれる言葉と出会う事が出来た。そういう意味で、私にとって大事な場所だった。
何度目に訪れた時だったか、面白い出来事があった。その日も私は、のんびり作品を鑑賞していた。すると突然、見知らぬ女性(たぶん私と同年代くらい?)が、ツカツカと近寄ってきて、「これどうぞ!」と小さな紙切れを私の手に押し付け、あっという間に去っていったのだ。
一瞬の事で何がなにやら分からず、私はただポカンとするだけだった。ふと我に返り、手元に残った紙切れを見ると、それは併設されたカフェで使えるドリンクチケットだった。
何故これを私にくれたのだろう……?使用期限が近かったからなのか、それとも沢山余っていたのか理由は分からないけれど、そのチケットは有り難く使わせていただいた。
数年前の冬に訪れた時、その頃私はいろんな事がうまくいかなくて、ほとほと自分が嫌になっていた。気持ちはどっぷりと暗く、荒んでいた。そんな状況で初めて目にした『受け身』という書。あの独特の書体で綴られた詩に、心が震えた。まるで自分へのエールのように思えて涙が溢れてきた。もしそこが美術館じゃなくて自分の部屋だったら、わんわん泣いていたかも知れない。でもそうじゃないから、上を向いて鼻を啜りながら必死で耐えた。
【受け身】/相田みつを
柔道の基本は受け身
受け身とは
ころぶ練習
まける練習
人の前にぶざまに恥をさらす稽古
受け身が身につけば達人
まけることの尊さがわかるから
昔、ほんの少しだけ柔道をやっていた事があり、だからこそ余計に身に染みた、というのもあるかも知れない。(受け身、練習したなぁ)
私にとって『相田みつを美術館』は、心の拠り所だった。なので閉館はやはり残念だ。
けれど今まで沢山の言葉で救ってもらった、その感謝の気持ちは何倍も大きい。
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