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滝修行の思い出 :心が洗われた2年間
2月になると、いつも思い出すことがあります。今から17年ほど前、私は当時勤めていた会社の研修の一環として、三重県鈴鹿市にある椿大神社で滝修行を経験しました。
その会社は非常にユニークで、通常では経験できないようなことを多く学ばせてもらいました。私は様々な経緯を経て購買部門に配属され、いわゆる出世コースを歩むことになりました。当時、国内には約7万5000社もの運送会社があり、その中でグループ全体として30位以内に入る規模の会社でした。そんな中での抜擢は大きなチャンスでしたが、出世コースに乗るためには滝修行を受けることが必須だったのです。
正直、私はこの修行が嫌で仕方ありませんでした。しかし、いろいろ考えた末に、やらざるを得ない状況となり、覚悟を決めて挑戦することにしました。滝修行は2年間にわたり、9月に始まり翌年の8月に終了するというスケジュールでした。
滝修行の始まり 〜恐怖と不安の中で〜
この修行が始まったのは、私が44歳の時。もちろん、それまで滝修行のようなことを経験したことはなく、不安と恐怖しかありませんでした。本当に2年間続けられるのか、やり遂げることができるのか、不安でいっぱいだったのを覚えています。
5月には、椿大神社の山本宮司による面接がありました。その面接では自己紹介や志望動機を書く必要があり、自分の生い立ちからこれまでの人生、そしてこの修行を受ける理由を記しました。私は「自分を変えたい」と書いたように記憶しています。
面接の際、山本宮司が私の書いた文章を読み、一言「君は本当に苦労したんだね」と言ってくださいました。その言葉を聞いた瞬間、思わず涙がこぼれました。さらに、宮司は「この滝修行を受けたら、半年後には君の人生は好転するよ」ともおっしゃいました。
30歳で投資詐欺に遭い、3000万円以上の借金を背負い、37歳でようやく完済したものの、そこからの7年間はなかなか目が出ず、苦労の連続でした。宮司の言葉を半信半疑ながら信じて、滝修行に取り組むことを決めました。
初めての滝修行 〜極寒の試練〜
8月、修行の一環として初めて滝に打たれる体験をしました。真夏にもかかわらず水は信じられないほど冷たく、滝を目の前にして「本当に大丈夫なのか?」という不安が押し寄せました。それでも「やれるだけやってみるしかない」と腹をくくり、修行をスタートさせました。
滝修行は夜10時半から行われ、ふんどし一枚の姿で滝に打たれます。滝に入る前には体操をし、約50人が5つの班に分かれ、順番に滝壺に入っていきます。しかし、最も辛かったのは、自分の順番を待つ時間でした。3人ずつ滝壺の水に足をつけて待つのですが、これがとてつもなく寒い。体が冷え切ってしまうため、水をかけて暖を取るものの、乾くとさらに寒さが増すという悪循環。
そして、ようやく自分の番が来て滝に入ると、いい加減な気持ちで臨んではいけないことを痛感しました。気持ちが乱れていると、なかなか修行が終わらせてもらえず、長時間滝に打たれ続けることになるのです。ようやく「上がっていい」と言われたときの安堵感は、今でも鮮明に覚えています。
修行を終えて 〜人生の好転〜
この2年間の修行の中で、本当に多くのことを学びました。ちょうど自分自身の変革期だったこともあり、宮司の言葉通り、人生が好転していくのを実感しました。滝修行を終えた後、仕事や人間関係、人生全般において、今までとは違う流れが生まれてきたのです。
私たちは21期生でしたが、滝修行を終えた20期生の先輩に「どうでしたか?」と尋ねたとき、「今考えれば、すごくいい経験だった」とおっしゃっていました。私はその時、「本当かよ」と疑っていましたが、自分が修行を終えた後に後輩から同じ質問をされた際、思わず「まあ、いい経験だったね。二度とやりたくないけどね」と答えていました。
最後に
この滝修行の経験は、今でも私にとって大切な思い出の一つです。精神的にも肉体的にも過酷でしたが、得るものは計り知れませんでした。もし興味がある方は、ぜひ挑戦してみてください。きっと心が洗われる体験になるはずです。
余談ですが、滝修行の最中、少しでも寒さに慣れるために、訓練として風呂場でシャワーの水を浴びて練習してみました。しかし、実際にやってみると水があまりにもぬるく、まったく練習になりませんでした。
滝の冷たさとは比べものにならず、「これでは全然意味がないな」と思いながらも、気持ちだけは作ろうと頑張っていました。しかし、いざ本番の滝に打たれると、想像をはるかに超える冷たさに衝撃を受け、シャワーでの練習がいかに無意味だったかを思い知らされました。
やはり本物の滝の厳しさは、実際に体験して初めて分かるものだと痛感した瞬間でした。
ちなみに滝を浴びるのは毎月第3土曜日で、最後は2回浴びるので計25回浴びます。12月はまだいいんですが、1月・2月はかなり辛いです。あと3月が意外にしんどかったです。