見出し画像

影が教えてくれたこと #シロクマ文芸部

昔々、ある広い草原に一本の木が立っていました。その木は立派で、太い幹と大きな枝が日陰を作り、旅人たちがその木の下で休むことができました。

ある日、一人の旅人が疲れ果てて木の下に座り込みました。旅人は木に向かってこう言いました。
「もう歩くのがつらい。どこへ行っても終わりが見えない。どうして僕ばかりこんなに苦しいんだろう。」

木は静かに旅人を見守りながら、穏やかに風に揺れてささやきました。
「旅人よ、私の役目はただここに立つことだ。風の日も嵐の日も、晴れの日も、私はここを動かずに立っている。そして、疲れた者が休む日陰を作り、必要な時に安心を与える。君もただ一歩ずつ進めばいい。それだけで十分だ。」

旅人はその言葉に涙を流しました。木の影に身を預け、しばらく目を閉じて休みました。気がつくと、心が少し軽くなり、再び歩き出す力が湧いてきたのです。

「ありがとう、木さん。」
そう言って旅人は笑顔を取り戻し、また自分の道を歩き始めました。

旅人は木の言葉に励まされ、また歩き出しました。青空の下を進むと、陽の光が照らす影が自分の足元に揺れていることに気づきました。影は常に彼と共にありましたが、その存在を気に留めたのはこの時が初めてでした。

「光があれば影がある。影があるということは、光もそこにあるということ。」
旅人はそう呟きながら、改めて周りを見渡しました。太陽の光が眩しく降り注ぎ、草原の緑がキラキラと輝いています。その光があるからこそ、影も彼の後ろに長く伸びていたのです。

しかし、影は彼にとって怖いものでも暗いものでもありませんでした。それは光がいつも彼と共にいる証でもあったのです。

やがて旅人は山道へと入っていきました。道が険しくなり、木々が増えて光が弱まると、影は薄れていきました。それでも旅人は知っていました。
「光が見えなくても、太陽は変わらずそこにある。」

疲れ果てた心の中にも、光は確かに存在しています。たとえ影が深くなったとしても、それはまた光がどこかで輝いていることを示している。

旅人は歩みを進めながら、心の中に小さな火を灯しました。その火は、希望や愛、そしてこれまでの優しさの記憶でした。その火がある限り、たとえ影が深くても、彼はまた光を見つけることができると信じていました。

疲れてしまうのは、それだけあなたが頑張っている証です。休むのもまた大事な一歩。心の中に「木の影」を持つようなつもりで、自分を癒やしてくださいね。

影は恐れるべきものではありません。それは光が共にある証です。そして光もまた、影があるからこそ気づける存在。どちらもあなたの道を形作るものです。

いいなと思ったら応援しよう!