|例え物語|キジ鳩とセクメトの頭脳戦なのでした。
ここは十九世紀末の大英帝国のロンドン。
重厚な黒ずんだ水蒸気を噴出している蒸気機関車が駐留するとあるロンドン駅構内の話であった。
七歳の白人の子供が巨大なドス黒い金属製のコンパスを引きずって駅構内の人の目につかない場所の影に、何かに怯えたかのように、人目を避けながら、隠れながらコソコソと逃げ回って移動していた。その子供は見た目は浮浪者一歩手前といった所だが、何故か奇妙にも貴族のような気品を漂わしていた………。
定刻どうりになかなか来ない機関車を待ち続ける、なかば苛立った老人や、中年、若者、子供、婦人達はイライラしながらも、辛抱強くも機関車を待っていた。
その人の群れの中を、押し合い圧し合いしながら、ひとりの汚い格好の浮浪者、物乞い風な白人の五、六歳の子供がフロック・コートのポケットの中に何かを大事そうに隠し、バレないようにコソコソと群集の中を、辺りをキョロキョロ見廻しながら警戒し、徘徊していました。
この二人は、以前からの顔なじみであるかのようにも見えましたが、全くの初対面でもあるかの様な様子にも見えました。ですが、はっきりと言えることは、異様なまでの緊張感と汗を、二人とも全身に漲らせ滴らせていたということです……………………………。
二人は押し合いへし合いの、すごい機関車待ちの群集の中、遠くからお互いの存在を、お得意のレーダーで敏感にキャッチしつつ、さっそくゲーム理論による頭脳戦を展開しているかのようでした。アスファルトの黒い路面を両の足でしっかりと踏み締めつつも………。
浮浪者風のフロックコートの子供は、群衆の中で、ついに!!ポケットからゴソゴソと、とある物を取り出しました。
それは、汚く錆びついた一振りの年代物のジャック・ナイフでした。それは何かの強力な魔力のようなものをバチバチと発して感じさせました。
フロックコートの子供は、何を思ったか?何も無い空中にかなり大きなスクエア、正方形の様な図形をナイフの切っ先で切り裂くように描き、切っていきました。
すると、描かれた群衆、ロンドンの駅構内の一角の空間に正方形の暗闇の空間、ブラックホールが現れたのです。
金属製のコンパスを重く引きずった白人の子供は、帽子のツバを掴み、次の展開をじっと予測しているようでした。その子供は通称、セクメトという名で、このスラム界隈では囁かれていました。
ジャックナイフの子供は、ここから遠く離れたスラム街では、通称、キジバトと呼ばれていました。
ジャックナイフ少年は、四角く開放された真っ黒なブラック・スクエアへ何かの合図を、拍手をパチパチと、叩きました。すると、おびただしい数の真っ白な鳩があふれんばかりに、無数に羽ばたいて飛び出してきたのです
。
セクメトは、事の成り行きを、動揺せずに、じーっ、と帽子のつばをつまみ、冷静に目で何か意味不明なものを観察している様子でした。それは確実に血に汗握る、高度な戦略的な頭脳戦といった所でした。
そして、意を決して、重厚な鉄製のドス黒いコンパスを地面に差し込み、何か思い切って
グルリと巨大な円をゴーッ!!と、いきなり描き出しました!!!!
すると、地面に巨大なブラック・ホールが誕生したのでした。そこにはきらびやかな様々な星雲や銀河の星星がまたたき、光り輝いていました。
セクメトは、いきなり大声で金切り声でつんざくような叫び声を上げました。それも、意味不明な理解不能な記号なのか、古代文明の古代言語なのか?それとも、エジプトの神聖文字ヒエログリフの現代語訳なのか???
おそらく、セクメトは、喋るのが苦手なのでこう語りたいのでしよう。このロンドンの古びた駅、古臭い存在意義など見いだせない、ケムリ臭い駅など、このコンパスで切り開いた、ブラック・ホールの銀河の巨大な神の力で大爆発をおこし、大空の向こうまでぶっ飛ばしやぁいいんだ、そうだ!!そうに違いないと!!!!!!
キジバトの白い鳩の群れはロンドン駅構内に
、すでにおびただしく溢れかえっていました
。駅構内の待ち人たちは、少し前からパニック状態で、あれよあれやと大混乱に陥っていました。
キジバトはセクメトの、自爆テロ的な、自暴自棄的な破壊活動を、かなり切れる頭で、すでにその前から巧みな頭脳的戦略眼でとっくに見透かしていたのです。
キジバトは、スラム出身なので正義感など微塵も持っていません。ですが、そんな子供でも自分の生命の大切さ、重さ、重大さは、分かっています。駅構内のバカどもの生命や、世の中なんか、どうだっていい!!!!!!
おいらは、おいらの生命の保証さえできりゃあいいんだよ!!!!!!!!
ただ、今、前からそうだけど、この駅だけじゃない、ロンドンの町全てが銀河の大爆発で吹っ飛んじまう、なんて事になったら、おいらの人生は終わっちまうじゃあねぇか?
しょうがねぇ、親の顔や名前も知れねぇ、おいらだが、救ってやるか。もっともあの、セクメトの野郎も、みなしごだがな。前にアイツの素性過去全てを聞いたことがある。相当の苦労人だろうぜ…………………。
キジバトは、手に持ったジャック・ナイフを
奇妙な動きで、変な図形を大きく描き出しました。それは、何処となく、ナスカのあの奇妙な地上絵や、シュメール文字を思い出させました。
図形からは、おびただしい世界各国の森や山
ジャングルに生息する、凄まじい種類と数の
鳥たちが、無数に羽ばたいて溢れんばかりに
飛び出して来ました!!!!乗客たちは慌てふためいて腰が抜けたように転がりまくっていました。その鳥たちは、何と、セクメトの銀河の、星雲の星々の一粒一粒を次々とついばんで、セクメトもろとも、あっという間に平らげて、星々を消滅させてしましました!
キジバトは、魔法の力を待つナイフを天高く放り投げて、思いっ切り叫びました!
セクメトよ!!!!!!お前が、オレに勝つにゃあ、あと数万年トレーニングが、絶対ぇ
必要だぜぇ!!
分かったか!!この自虐な自暴自棄的自爆テロリズム野郎!!