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dongmu
Pick Up…ことばを拾う2。
「お父さん」
と銀河は父に言った。
「うん?」
「宮女になると、いい暮らしができるって本当かなぁ。もし、本当ならわたしもなりたいな」
父親は、思わず咳き込んでしまった。
「馬鹿を言いなさい!誰がそんなことを言った!」
普段は謹厳実直を絵に書いたような人である
。食後の煙草を取り落とした。
「近所のお姉さんがそう言ってたし、隣のおばさんも」
「お前は宮女がどんなものか知らんのだ」
「どんなものなの?」
「知らんでも、よろしい」
「近所のお姉さんは、いい服が着れて、三食に昼寝が付いて、もし天子様のご寵愛でも受ければ、したい放題の贅沢ができるって言ってたよ」
「後宮小説」酒見賢一著より。
酒見氏のリリカルな文体は、
かなり時間が経っても色褪せて
いない。架空の中国の王朝のハ
ーレムに興味しんしんの少女の
銀河の可愛さと冒険心が魅力。