16.その時半吉はただのマーク
8月24日
SNSで知り合った片麻痺の同年代の人と電話で話した。症状や状況は違うが、同年代ならではの話やあるあるは楽しい。脳フェスも楽しみだ。
脳出血を機に知り合った人達を、家族や友達に説明するとき、呼称としてそのままだと長い。
片麻痺でもなんか伝わりにくい。障害の〜だとなんか違う気がする。
脳友にしよう。絶妙な抜け感だ。きっと流行らない。
8月25日
パラケインを携えて、以前渡りきれなかった信号にリベンジしに行った。
結果は成功だった。行きはパラケイン装備、帰りは杖無しでクリアした。前はリハビリ時間ギリギリだったが、病院に帰っても30分近く余っていた。
パラケインを使ってから、歩行速度が目に見えて上がっていった。パラケイン独特のしなりで蹴り出しの足がより前に出ることで、歩幅が広くなり結果速度が上がる。
これを使い始めてから、杖無しでの歩行も歩幅が広くなり、スピードが上がった。なので杖無し歩行はできるが、しばらくは併用しながら様子を見ようと思う。
パラケイン、ほんとすごいと思います。
8月26日
目標にしていたでんぐり返しに挑戦。緊張のため指が閉じてしまっていたが、勢いにまかせて回転してみた。
回ったあとの着地はグダグダだったが、まあ成功といって良いだろう。日常生活において特に役に立つものではないが、PTさん達と盛り上がったので良しとしよう。あとはスキップを残すのみだ。
PTさんが個人的にある大学の研究に参加しているらしく、その被験者になる。簡単な内容としては手を動かすことを思い浮かべて、その信号が正しいなら映像が流れたり電気が流れたりするものだった。
脳波を測るために、ものすごくそれっぽい機械を装着する。
20日間ほどの研究期間とのことなので、退院までギリギリのスケジュールとなる。
病院ではなくPTさんが個人的に参加している研究のため、12時台の昼休憩と17時以後のPTさんの勤務時間外に行うことになるらしい。僕としてはラッキーだ。
8月30日
担当PTさんがスキップのためのフローをまとめてくれた。
でんぐり返しといいスキップといい、楽しんでしかも真剣に取り組んでくれる担当さんには感謝しかない。
病棟で年頃の女性が、本気のスキップをしたことを僕は一生忘れないだろう。
ひとまずは麻痺側を曲げての踵上げをすることから始めようと思う。これは相当難しい。麻痺にならないと意味がわからないと思うが、麻痺側の足裏は例えるなら、ゴリラテープが足裏にびっちり貼られているほど剥がれない。
これを足の力で剥がして、さらにジャンプしなきゃいけない。無理ゲーである。勢いでスキップしたいなんて言ってみたが、思ったより険しい道のりだった。
8月31日
サポーターを外して何もつけずに歩いてみた。
前は内反といって足の裏が横に向いてしまう現象が起きていた。それもあり内反防止サポーターをキツめに巻いて歩いていた。
しかしパラケインの効果もあり足の向きが変わってきた感覚があり、いけるのではと試してみた。
結果は、若干パタパタと接地にバタつきはあるが、普通に歩けそうだ。とりあえず室内で何もつけずに慣らして、最終的に屋外も歩ける様にしたい。
作業療法でトランプをめくるリハビリをした。これも日常生活で使うものではないが、薄さと指の動きから言って、今までの積み木やペグとはレベルが違う。
自主トレメニューにトランプやおはじき、綿棒が加わった。全部一気に行うと筋緊張と脳疲労で眠くなるが、少しずつ休みながらであればやれる。
積み木1個掴んで運んで離すのに1ヶ月以上かかった身としては感慨深いものがある。
5月10日から追ってきた日記も、かなりの量になってきた。退院してから今後やりたいことはいくつかまとまってきたので、まとめておく。
①今までの体験をまとめて、何かしらの形で発信する
僕が発症から立ち直って来れたのは、家族は友人の支えが大きい。ただ症状や将来への不安に関しては、SNSに発信された情報によって解消された部分が大きい。
この日記の始めにも書いた通り、何かしらの形でこの病気に罹ったいちサンプルケースを発信したい。
また子供や家族が、僕にその時何があって、どんな気持ちだったか知ってもらえればと思う。
②障害者雇用を行いたい
今まで僕は、障害者について考えたことは無かった。町で見かけたら席を譲ったりするし、ヘルプマークの人が困ってそうなら声を掛けるくらいのことはやってきた。
しかし彼らの日々の生活や将来をどうしていくかなど、考えたことは無い。今回の件で障害を持った人と話す機会もかなり増えた。
中でも雇用問題はかなり根が深いことがわかった。障害があることで賃金がかなり安く設定されていたり、そもそも働けない場合もある。
僕は会社の経営側の人間なので、しっかり考えてこなかったこれまでを恥と考え、これを機に障害者雇用を前向きに考えようと思う。
③自助具を作りたい
自助具という道具がある。自助具とは、障害や加齢などによりできない動作の補助をしてくれる道具のことだ。
僕が使っていたものでいえば、箸蔵くんというバネのついた介護箸や、OTさんが作ってくれた、物を掴みやすくするための指カバーなどがある。
入院中、片麻痺で靴紐も結んだり、ボタンを留めたりする自助具をネットで探していた。すると自助具メーカーは意外と少なく、自助具はセラピストさんが3Dプリンターで作っているケースが結構多いことがわかった。
更に3Dプリンターに出力できる自助具のレシピが無料でアップされていた。
僕は箸蔵くんを使いながら、ここはもう少し長がったらいいのに、とかここは角度があれば、などいろいろと思うこともあった。
僕の担当OTさんは、自分の担当患者にちょくちょく自助具を自作で作ってあげていた。
もし何か発信するなら、3Dプリンターも用意して自助具作りをできないかと思った。
各項目の進捗については、追って何かしらでお伝えします。
この後退院してから、障害を追ったことによって大変な事も辛い事も出てくるだろう。ただその度にうじうじしているのも自分らしくない。
病気で倒れたのに、タダで立ち上がるのはもったいない。これから会社の代表になろうという人間が病気で倒れてリハビリ中なのだ。何かに使えないだろうか。
せっかく福祉関係、障害者の方と知り合いになったんだ、何かに役立てないだろうか。
誰かの、何かの役に立てれば、僕の病気も意味を持ってくる。どうせなら、このために病気になったんだと肯定したい。
半吉は半分になったが図太さは前以上だと言われたい。何かを始めよう。続く
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