羽管筆と呼ばれる伝統の水彩筆
思いを引き継ぐような頂き物がある
画家をやっていると、絵を描いているからこその頂き物がある。
絵の道具の類で、誰かの不用になったものとか、使わないで余っているものとかだ。
韓国の手漉きの紙をいただいたことがある。このときは、和紙とはまた違った趣がある紙のおかげで、今までと異なる雰囲気の絵を描くことができた。
また、未使用の筆をまとめて頂いたことがある。そのときは、たくさんの水彩用筆を頂いた。「亡くなった主人のものですが、未使用なので使っていただけませんか」という話だった。直接ご主人とは会ったことがないが縁のある方だったので、ありがたく頂戴した。
こうしたとき、前の持ち主の未完に終わった思いを引き継ぐような気持ちになる。
混じっていたラファエルの羽管筆
30本ほどあった筆はすべて未使用で、選び方も一貫性があるように思えない。
「これから絵を描くぞ」と思って、あれこれ見ている内に買い貯める結果になった。そんな印象だった。
でも、こんな筆もあんな筆もあるといいなと思いながら、買い揃えたのだろうなと思うと、故人が筆選び自体を楽しんだことが伺われて救われた感じがしたものだ。
筆は野外スケッチ用の短い筆や、ちょっと珍しい穂の長い筆があったりする。そんな筆の中に異色の筆があった。
ラファエルの羽管筆だった。羽管筆とは聞き慣れないと思うが「うかんふで」と読む。現代の水彩用筆は金属のパイプで穂を纏めているが、この筆は透明なビニール状のものと銅線を使って筆を纏めている。水彩筆の古い作り方で作られたものだ。元々はビニールになっている部分に鳥の羽の根元の方を使ったそうだ。そのため羽管筆と呼ばれる。
このラファエルの羽管筆、何とも古典的な面持ちがあって優美で美しい。筆自体を眺めていて飽きない。ラファエルは1793年創業のフランスの筆メーカー。あらゆる筆を生産しているが、古典的な作り方の筆もいまだに製造している。
ラファエルの羽管筆は16種類あって大きくなるほど高価、値段のことを言うのもなんだが、一番大きい筆だと4万円台になる。
ところで考えてみたら、奥さんは未使用という理由でくださった。当然、破棄された使用済みに筆があったはず。
ひょっとして、その中に他にも羽管筆があったのでは、といういまさらながらの疑問が、今ふと浮かんだ(笑)。
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