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ポタニカル・アートとプラントハンターそして小さな水彩絵具の箱

 ポタニカル・アートと呼ばれるアートの領域があります。植物細密画です。植物を科学的な観察に基づき、詳しく間違いなく描写した絵ですね。アートの分野となっていますが、元は写真がない時代の記録資料として描かれたものです。記録からアートへ格上げされてきたものは、日本でもありますね。例えば寺社に残された縁起絵巻なんかもそういえます。素晴らしいものが残されていますが、描いた本人は記録として伝わるように全力を尽くしたと思います。
 ポタニカル・アートも同様で、描画技術を記録として最大限に生かすことで美が生まれたのだと思います。NHKの朝ドラで明治の植物学黎明期に道を開いた植物学者として描かれている牧野富太郎もポタニカル・アーチストでもあるとも言えます。

 では正確な観察に基づく植物精密画がなぜ必要だったのでしょうか。それは17世紀の大航海時代に関係あります。大航海時代などと呼ぶと何だか勇壮で前向きな時代のように見えますが、早い話、科学技術が先に進んだ国が遅れた国を征服して回った時代。
 彼らは征服した国から何でも持って帰りました。何でもというと語弊があるように思うかもしれませんが、桃太郎のように金銀財宝でだけを持ち帰るわけではなく、資源、文化財、人間などなど、それに梅毒まで。じつはその中に植物も含まれていました。そのための記録資料がポタニカル・アートだったのですね。
 その植物資源の探索に努めたのが、プラントハンターと呼ばれる人たちでした。彼らは鑑賞用に売り物になる植物、薬効作用にある植物、食用や香辛料になる植物、綿やゴムのように工業資源になる植物などを研究し、母国に持ち帰ったのです。
 もちろん、このことでとくにイギリスを始めとするヨーロッパの国々の多くの人に役立ったことは事実で、今、彼らの食卓に上る多くの食材はプラントハンターが持ち込んだものと言われています。

 このようなポタニカル・アートやプラントハンターの歴史を顧みて、愛用の小さな水彩絵具セットを眺めると感慨深いものがあります。計ってみると縦120mm、横45mm、高さ10mmの黒い箱です。小箱の裏側に輪が付いています。
 開くと18色の絵具と筆、パレットが現れます。裏面に付いた輪はパレットのように持てるようにした工夫。筆は伸び縮みして小箱に収まります。ホウロウ引きの鉄製。重量感とパレット部分の感触がいい感じです。とても小さくて機能的なスケッチセットです。僕はあまり画材を拡げたくない折に使っています。
 このイギリスのメーカー、タウニー社の「ボタニカル スケッチセット」という名称の水彩絵具セット。このような画材がプラントハンター時代に使われたか定かではありませんが、眺めていると歴史の一端が感じられる品でもありますね。

※タイトル画像はMarukimaruの自作ですが「しちゃうおじさん」プロデュースの「みんフォトプロジェクト」経由で自由にお使いいただけます。背景色のバリエーションも揃っています。その他にもMarukimaru作品が「みんフォトプロジェクト」にギャラリー展示されいます。




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