『真珠貝』✦小さな小説を3つ

✦『真珠貝』

  貝の母さんは言いました。
「お腹に真珠を作ってはダメ。怖い人間が刃物でえぐり出すよ亅 
「 でも私、光る玉を産んでみたい亅 
   隠れて身ごもった娘は、刻まれて、捨てられました。でも、最後の瞬間に娘は見たのです。自分が産んだ美しい玉が、漁師の荒れた手の中で、七色に輝いたのを。


✦『お望みどおり』

  漫才師が言いました。
「笑いたいセリフを考えて下さい 。そう言います亅
手品師は「どこに隠せばいいか決めてください。取り出して見せます亅。
   女は怒って恋人のもとへ。
「どんなセリフで慰めて欲しいか、最初から最後まで言ってごらん。優しい僕は、君の望みを何でもかなえよう亅
「別れて亅


✦『手をつなぐ』

  独り悩みながら雪の道を行くと、ふと、自分が誰かと手をつないでいるのに気がついた。
  懐かしい感情が湧く。きっと、親しい人だろうと、隣を見ると、それは驚いたことに私、だった。
「手まで自分とつないで どうするの?!」眼の前の私は言った。
「誰かに会いに行きなよ、いま！」