村井 悠

短編小説やエッセイ、詩などを書いています。少しでも読んでいただけると嬉しいです。

村井 悠

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最近の記事

しろいへや【詩】

なんだか分からぬパーティのさなか わたしへ電話がかかったようで リンリン呼ばれてせまいへやに入ると 男か女かも分からないくらいの小さな子が ひょいと受話器をなげてよこした それをぱちっと耳に当てると ぜんぜん知らない声がする 「あなた、とてもまっしろね」 「マザー・グースですか」 はたと目を上げてみれば もう子供はいなくなっていた もちろんドアもなくなった あたりはしろい壁に囲まれて もうせまいへやから出られない もうしろいへやから出られない 村井 悠

    • メロンパン・レボリューション 〈エッセイ〉

       人生の中に、尋常では無くメロンパンに執着していた時期がある。  それは小学生の頃の話だ。当時は僅かな小遣いを切り詰めて駄菓子を買い食いするような時分で、そんな小学生にとって100円以上する菓子パンはこの上ない贅沢品だった。100円あれば、3日は友人と買い食いが出来るのだ。  それでも僕は一年ほど、友人の楽しい誘いを断ってまでも、一人でメロンパンばかりを食べていた。それくらい、執着していたのだ。  さて、それでは僕がメロンパンをこよなく愛していたのかと言えば、実はそう

      • DEAR LADY 〈詩(或いは届かない手紙)〉

        僕は君を愛している。 言葉にしてみると、何てちんけで何と陳腐なのだろう。 小説でこんな言葉が登場すれば僕はうすら寒く思うだろうし、読んだ後に37.8度の熱を出して2日間寝込むかもしれない。 それでも事実は個人の感情など関係なく、事実として存在するものだから仕方がない。 仕方がないので、改めて述べておきたい。 僕は君を愛している。 僕がそれを知ったのは、急いた桜が咲き始めた頃のことだった。 それまで気が付いていなかったことが不思議なほどに、その感情は突然として必然的に表

        • 喫茶店が三途の川ならば 〈エッセイ〉

          この文章を読んで下さっている皆さんは、飲食店で働いた経験はお持ちだろうか。 働いたことがあるという方には良く分かっていただけると思うが、飲食店で最も億劫な業務の一つに「洗浄」というものがある。文字通り、使用した食器や調理器具を洗うという単純な作業なのだが、これがなかなかに辛いのだ。 忙しければ忙しい店であるほどに大量の食器や調理器具を使うし、その分だけ洗い物は多くなる。大体の飲食店には忙しさの波があって、忙しい時間帯に溜まった洗い物を落ち着いた時間に何とか洗い切る。すると

        しろいへや【詩】

          エウレカ! 〈詩〉

          思考は言葉にならない 言葉は旋律を生まない 旋律は孤独を払えない 孤独は球の形に押し固められて 放った球は網をかすめて跳ねた 夜を焼き尽くす様な焦燥を貴方は「些細だね」と言った 頷いたポケットには私の全てがある 鍵と古びた財布と折れた煙草 それだけ 夜を塗り変える様な葛藤を貴方は「下手糞だね」と笑った 鬱蒼とした部屋には私の全てがある 塗装の剥げた机と空っぽの本棚 それだけ いつ終わるとも知れぬ肝試し 日々過ぎずとも終える気も無いし 貴方は頬を撫でな

          エウレカ! 〈詩〉

          君の名はアーセナル-第4章 -「ダイチ・エヴァートン&ボーンマス」-

          「ダイチ・エヴァートンへの敗北はアルテタ・アーセナルが抱えるいくつかの問題点を明らかにし、絶好調だったチームに大きな影を落とした。そして、ボーンマスへの劇的な逆転勝利は優勝へ突き進む情熱と実感をエミレーツに与え、ネルソンという「ローカル・ヒーロー」を生み出した。この二試合は、2022-23シーズンのガナーズを語る上で避けては通れないものであり、アーセナルを主人公とする物語において、確かなターニングポイントとして存在している筈だ。」  アーセナルは2022ー23シーズンの前半

          君の名はアーセナル-第4章 -「ダイチ・エヴァートン&ボーンマス」-

          君の名はアーセナル -第3章「トランスファー・ウィンドウ」-

          フィクション作品において、最初から主人公が完璧な存在であることは少ない(最近はそういう作品も見かけるが)。魅力的な主人公は優れた才能や能力と同時に大きな問題点を抱えており、物語の中で課題解決に取り組むことで、次第に完璧な存在へと近づいていく。  2022-23シーズンのアーセナルに関して言えば、一番の問題点は昨シーズンに引き続き「層の薄さ」にあった。2022年夏の移籍市場におけるフロントの働きは素晴らしく、シティから獲得したジェズスとジンチェンコ、マルセイユへのローンから復

          君の名はアーセナル -第3章「トランスファー・ウィンドウ」-

          君の名はアーセナル -第2章「ケミストリー」-

          「主人公(チーム、組織なども含む)が様々な要因から、想定された以上の結果を残す」という様なストーリーのフィクション作品は、数多く存在している。それでは、その物語において主人公が残した結果・成果の根拠・理由となっているものは何だろうか。それは一つではないが、恐らく最も重要なのは「ケミストリー」の存在だと思う。  「ケミストリー」という単語は様々な場面で用いられるが、もとは「化学反応・化学現象」という意味だ。フットボールを語る為に訳すなら、「相乗効果」ということになるだろうか。

          君の名はアーセナル -第2章「ケミストリー」-

          君の名はアーセナル -第1章「ラスト・ピース」-

           2021-22シーズンのアーセナルは、「5位」でプレミアリーグの最終節を終えた。この結果に関しては、人によって評価が分かれるところだと思う。開幕3連敗を喫して、早々にアルテタの解任論が叫ばれながらも、何とかチームを立て直したという点では良いシーズンだった。久しぶりにシーズンを通してCL争いに食い込んだという意味でも、「古豪」という二つ名を払拭し、チームが正しい方向へ向かい始めた雰囲気もあった。  ただ、シーズン終盤に調子を落とし、CL出場権をあと一歩の所でトッテナムに搔っ

          君の名はアーセナル -第1章「ラスト・ピース」-

          君の名はアーセナル -前書き-

          「2022ー23プレミアリーグを一つの物語とするなら、主人公はアーセナルだ。彼らが持つケミストリーは、単なる戦術的な語りに留まらない魅力を有している。4月27日に2位マンチェスター・シティとの天王山を迎える前に、今シーズンの彼らが描いた軌跡とエキサイティングな物語を振り返りたい。」 ・前書き  2022-23シーズンのプレミアリーグも終盤に差し掛かり、優勝争いは白熱の様相を呈している。30節が終わった時点で、首位アーセナルの勝ち点は「73」、2位マンチェスター・シティの勝ち

          君の名はアーセナル -前書き-