④/⑧『入門シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才』

④/⑧中野剛志氏著『入門シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才』読了。



著者による解説動画は以下より。


今回は難しい本でしたので、各章ごと(全8章)にまとめていきたいと思います。


各章はこのようになっています。

①どんな人がイノベーションを起こすのか

②資本主義とは何か

③なぜ日本経済は成長しなくなったのか

④創造的破壊とは何か

⑤企業の成長戦略

⑥どんな企業がイノベーションを起こすのか

⑦シュンペーター的国家

⑧資本主義は生き延びることができるのか


今回は④を取り上げます。


④創造的破壊とは何か

創造的破壊というワードはシュンペーターが広めたことですが、要するにイノベーションのことを指しています。イノベーションについての説明は①の感想より。


この章で指摘されていたことは、創造的破壊とは何かというよりも、創造的破壊をするのは誰かということでした。①では、創造的破壊=イノベーションを起こす人は「行動の人(企業人)」としていましたが、この章では、イノベーションを起こすのは大規模な組織と戦略だとしています。イノベーションを起こす主体を、①では個人、④では大規模な組織としているので、研究者の間では前者を「シュンペーター・マークⅠ」、後者を「シュンペーター・マークⅡ」としているようです。


そして、ここでは主流派経済学が想定している「完全競争」とシュンペーターが唱えた「独占的競争」を対比して論じています。まず前者は「同一の商品やサービスについて、無数の生産者と消費者がいて、自由に競争しているが、どの生産者も消費者も、市場の価格を与えられたものとして受け入れている」としています。この「市場の価格を与えられたものとして受け入れている」の部分に違和感を感じずにはいられませんが、ひとまず置いといて後者の定義を見ていきましょう。後者の定義はこうです。「多数の生産者と消費者がいて、同一商品やサービスをめぐってではなく、商品やサービスの差別化を行うことによる競争であり、また、価格も所与のものとして受け入れるのではなく、戦略的に価格を設定してライバル企業を打ち負かそうとする競争」です。後者のほうが現実に即してるのは説明するまでもないでしょう。シュンペーターは、さらに、「競争制限」がイノベーションに必要だと説きました。言うまでもなく、イノベーションには、長期的な投資が必要です。しかし、創造的破壊=イノベーションがある限り、景気に波が生じ、将来の不確実性が高まります。その時、企業は、製品の価格変動を抑えるために広告やブランド力を使って競争を制限したり、技術開発投資のリターンが確実に確保できるように特許権を取得したり、取引先との間で長期契約を締結したりします。そんなことが中小零細企業にできるでしょうか。大企業にしかできないというのが、シュンペーターの出した答えです。つまり、イノベーションには、競争制限と大企業の存在が不可欠なのです。にも関わらず、日本では「創造的破壊」を「構造改革」と誤解釈して(意図的か意図的でないかはわかりません)、規制を取り払うことばかりを行ってきたのです。つまり、シュンペーターの言う事と逆のことをしたのです。それでイノベーションが起きないのは当然としか言いようがありません。ちなみに、イノベーションを起こすのは大企業であるという言説は今でも有効かについては現代のデータを示して説明されていますので、詳細が気になる方はぜひ本を手にとってみてください。


今日はここまで。


以上

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