⑦/⑧『入門シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才』
⑦/⑧中野剛志氏著『入門シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才』読了。
著者による解説動画は以下より。
今回は難しい本でしたので、各章ごと(全8章)にまとめていきたいと思います。
各章はこのようになっています。
①どんな人がイノベーションを起こすのか
②資本主義とは何か
③なぜ日本経済は成長しなくなったのか
④創造的破壊とは何か
⑤企業の成長戦略
⑥どんな企業がイノベーションを起こすのか
⑦シュンペーター的国家
⑧資本主義は生き延びることができるのか
今回は⑦を取り上げます。
⑦シュンペーター的国家
前回の話では、日米における「内部留保と再投資」「終身雇用」をするイノベーションの起こりやすい企業形態が、株主資本主義のせいで「削減と分配」をするイノベーションの起こらない企業形態に変えられてしまったという話をしました。しかし、GAFAやテスラに代表されるようにイノベーションを起こす企業が米国にはあるイメージがあります。株主資本主義に侵食されているのに、なぜ米国ではイノベーションが起こるのでしょうか。結論を言えば、それは政府が莫大な資金を投じて大規模、長期、計画的な産業政策を、特に軍事における産業政策を強烈に推し進めていたからです。言わば、革新的企業の役割を政府が担ったということです。たとえば、シュンペーター派のマリアナ・マッツカートらによれば、iPhoneに関して言えば、部品として使われているものは政府の産業政策によって生まれたものだと言います。もちろん、それらを新結合させてiPhoneを誕生させたスティーブ・ジョブズの実力もあったのは事実ですが、政府の産業政策なしにiPhoneが作れなかったのも、また事実です。他にも、例があるのですが詳しくは本書を手に取ってみてください。
シュンペーターは不確実性が常に伴う経済状況において、不確実性を低減させ長期的に投資ができる独占的な大企業がイノベーションを生むと言いましたが、不確実性がありながらも、独占的に長期の投資をできるこの世で最大の主体は政府です。なぜなら、企業はどれだけ大きくても貨幣創出ができませんが、政府には貨幣創出ができるからです。だからこそ、マッツカートは政府による産業政策を、今度は軍事だけでなく、癌の撲滅や脱炭素などの他のミッションにおいて進めるべきだと主張しています。そんな彼女は、イノベーション研究を進める中で、政府と中央銀行を合わせた統合政府は貨幣の発行者であるから予算的制約から解放されているとするMMT(現代貨幣理論)を支持するようになりました。これは何も偶然ではありません。シュンペーターの理論は貨幣論とイノベーション論に分かれ、貨幣論はハイマー・ミンスキーに引き継がれ、その弟子のランダル・レイがMMTを提唱しました。イノベーション論はマッツカートに引き継がれ、「企業家としての国家」として形作られました。一度分岐したシュンペーターの理論が、現代におけるマッツカートのMMT支持によって再び統合されることになったのです。ちなみに誤解がないように断っておきますが、MMTでは統合政府が貨幣の発行者だからといって無限に貨幣を発行すべきとは言っていません。政府支出や徴税によって生じる社会的な影響(インフレ率や失業率や金利など)を考慮しながら貨幣発行や徴税をすべきと言っています。米国は株主資本主義に侵食され企業がイノベーションをなかなか起こせなくなった代わりに、政府が産業政策を強く推し進めてきたのですが、一方、日本は株主資本主義にも侵食され、政府の産業政策もしなくなりました。結果、デフレに陥り、イノベーションも起こらなくなりました。学べば学ぶほど、日本の愚かさを痛感します。この国を変えるには、一人でも多くまずは正しい貨幣論(信用貨幣論)を学ぶしかないと思います。
今日はここまで
以上