八重桜
三月中旬のある日。その日はどんよりと厚い灰色の曇り空に覆われる。太陽が灰色の曇り空の中に隠れんぼ。「もういいかい」「まだだよ」太陽が完全に隠れきったのを合図に灰色の曇り空から小さな雨粒がポツリ。ポツリと降りしきる。まるで寂しがり屋で我が儘で泣き虫な誰かさんの涙の様。
地上では八重桜が開花する。八重桜は他の花よりも少し大きな花弁のドレスを纏わせ大輪を咲き誇る。その姿は他の花をも愛でるマダムの様。今宵は雨の雫で花弁のドレスが濡れているがそんなものは気にしない。そこで気にしたら負け。雨の雫で花弁のドレスが濡れてもさらに際立つ美しさ。妖艶で麗しく全ての花を圧倒させる。美の暴力。八重桜は影響力を知りながらも今日も今日とて美の暴力で圧倒された花々を慈しみ口説く。「今日も小ぶりで純粋で可愛いらしい姿だ」「今宵は私と踊っていただけませんか?」
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