帰り道の街路樹
短大の入試の帰り道、あの人がいた。
たぶん別人。たぶん別人、別人なはずでしかないんだけど、あの人にそっくりだった。
8,9歳から11歳まで一緒に居た、あの人に。
わたしには3人、父と呼んだ人がいる。ひとりめは実の父、3人めが今生活を共にしている、弟の父。そして『あの人』というのが2番目の父。
あまり細かく書くと身バレしそうなのでやめておくが、離婚の原因はそのひとのDV行為だった。
精神的なものから始まり、しまいにはきょうだいを身ごもった母に手を出したことが、決定打になった。
学校を休み、市区町村指定のゴミ袋にありったけの服と持ち物を入れて、車の荷台へ積んだ。袋の山のいちばん上には、20インチもないほどのテレビとランドセル。
そこから1週間は、隣市の駅前のビジネスホテルから学校に通った。
母が守ってくれていたおかげで、わたしには身体的暴力はなかったので、印象としては怒るとめんどくさいなあ、長引くなあ、関係のない昔のことや人間性のことまで言及されるのがいやだなあ、の程度だ。守ってくれていた母には申し訳ない。
引っ越しをしてからは、そこに追ってこられるなど、こわい思いをすることなく今に至る。
母も、私にしか通じないブラックジョークとして、その人の口癖をネタにしたりしていた。
そっっっくりだった。顔が。とても。
その人は道路脇の植木の剪定作業を、雨に濡れながら、複数人でおこなっていた。
街中で入試を受けた後、スーパーに寄って自分へのごほうびを買って歩いて帰っていた。
家の前の大きな坂で、工事してはるなあ〜通ってもいいかなあ〜と少しペースを落として歩く。
手前の人がおそらくわたしに気付いて、急いで散らばった植木の端くれを端に寄せてくれた。
すれ違う時に『ありがとうございます〜!すみません〜』って言おうと思っていたのに、その人はわたしとすれ違う直前でごみ収拾車の後ろに隠れる形になった。
なんでか分からないがとても気になって振り返って顔を見た。
胸がどきどきした。
その一瞬で色々な想像が頭の中に駆け巡った。
でも絶対ありえない。行政は住所を教えないようになっているし、職業も違う。転職している可能性もあるけれど、なぜかそれは現実にイメージできない。
なぜこのタイミングで、大学入試という人生の節目で、神様はわたしに、あの人のことを考える機会をあたえたのだろうか。
今はなにをしているのだろう。どんな暮らしをしているのだろう。わたしたち母娘との出会いは、いったい彼の人生にどんな影響をあたえてしまったのだろう。