小説 (仮)被災者になるということ~能登半島地震より 第69話

3月9日 土曜日

雪が積もり寒い朝だった。
朝御飯を何にするか考えた。
白湯を飲んで体を温め、パンとポテトのスナック菓子の半分を食べた。
それから豆乳を飲んだ。
口内炎が思ったより早く治ってきた。

声優のたらこが亡くなったというニュースをやっていた。
ちびまる子ちゃんはそんなに見ていないけれど、あの特徴的な声が
変わってしまうのかと思うと少し寂しかった。
昨日に続いて悲報のニュースを見て、あらためて人の世のはかなさを思った。

家に戻って洗濯と片付けをした。
それから、息子が飛行機に乗るのに手荷物を入れるリュックを忘れていたので、息子とファストファッションの店に行って買い物をした。
ちょうどいい大きさのがあったので、それにした。
無事に買えてよかった。

夫が金沢カレーを食べたいというので、家族3人で道の駅に行った。
W市は道の駅に金沢カレーの店がある。道の駅周辺の駐車場だったところは、仮設住宅建設中か工事車両の駐車場になっていた。
とめていいのかどうかわからないが、工事はお昼休みで人がいなかったので、駐車場の空いてたところにとめた。
金沢カレーの店に入る。
工事の人や支援の人などですごく混んでいて、テーブルが空くまでしばらく待った。私たちはカウンターとテーブル席で分かれて座った。
でも若い女性の店員さんはすごくてきぱきしてて、ほんとに立派だった。
カレーは使い捨て容器で、水の容器だけはプラのコップだった。
昼三時間、夜三時間の営業になっていた。
カウンターに座った常連さんらしいおじさんが、水でるようになったの?と店員さんに聞いていた。
まだなんですよ、道を挟んで向こうは出るんですけど、と言った。
とても驚いた。断水でも調理をする彼女たちの苦労はどんなものだろう。それでもこのような笑顔で仕事ができるというのは素晴らしいと思った。
カレーを食べると、体と心に栄養がいきわたるようだった。

息子を避難所におくり、夫と家電量販店にいく。
夫が欲しかったものはなかったようで、レジ近くのウェットティッシュを買って家に帰った。
雪が降っていた。
ダイヤモンドの指輪が頭から離れず、家でもネットばかり見てしまう。
中古なので、これを逃すと同じものは二度と見つからないかもしれない。
よくわからないところがあったので、ショップに質問メールを送ってみた。返事は月曜しかこないらしいが、返事がきて納得できたら買おうと思う。それまでに売れたら縁がないのだ。
気分を切り替えて片付けに入った。
いつものことながら、すぐにごみ袋がいっぱいになる。
すっきりして楽しいと言う気持ちはない。これだけお金が無駄になったという風にしか思えなかった。

避難所に戻るとマットレスが届いていた。
マットレスはうれしいが、こんな時期になってからだと、余って無駄にならないだろうか。
最初使っていた黒いマットは段ボールベッドが来た時に使われなくなって、体育館の隅に積まれている。我が家はマットの上にベッドを置いていて、その方が足音が響かないと思うけれど。
私たちはもうすぐ退所するかもしれないのに使ってよいのだろうか。
しかし、もう届いてしまっているのだから、使っても使わなくても同じだろうと思い、使うことにした。

晩御飯はコンビニののり弁当と粕汁と麻婆茄子だった。
とても豪華で食べきれないくらいだ。弁当のコロッケを夫に、ちくわ天を息子にあげた。
電子書籍の漫画を探すが、もう一歩足りない気がして買わなかった。
夫はまた8時過ぎに寝てしまった。
マットレスは固めのものだったが、私にはちょうど良かった。
足首に段ボールが当たって痛いこともない。そして少し暖かい。
よく眠れた。

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