小説 (仮)被災者になるということ~能登半島地震より 第73話

3月13日 水曜日

朝食に食パンが配られるがもらわないでおく。
日持ちしないし、食べきれないからだ。
トースターはとても人気があった。ジャムも2種類トースターの横に置いてある。トースト派の人が多いようだった。
だから食パンが届いたのかもしれない。
私は感染症が気になるので、みんなでジャムを使うことが心配だった。

息子の英語塾の先生からショートメールがきた。
丁寧な長いメールだった。先生は私立大学の講師もしていた。
地震でその大学が東京のほうに移転して再開するので、先生もそれに合わせて東京に行くということだった。
この機会に正式採用となったことも書いてあった。
先生の家が全壊になったのは知っていた。
先生の奥さんは輪島塗作家で、金沢の工房に引っ越して制作するということもニュースで見ていた。だからどちらにしても、先生もこちらには残らないだろうと思っていた。
わかっていても、もう会えないかもしれないことが悲しかった。
息子にもその内容を見せた。
こちらに来た時には連絡くださいと返信した。
先生のメールには「前向きな姿勢で頑張っていくしかないですよね」と書いてあった。その通りだ。

今まで持っていたマンガの新刊がでていたので、購入しダウンロードした。
夜の楽しみにして、今は読まない。
朝は長期保存パンと豆乳にする。
豆乳を飲んだときに、しっかりと豆乳の味がして、この前まで味覚障害だったかな、と思う。

仕事は忙しかった。
簡易トイレをまた使ったが、だんだんたまってくるので使うのにためらいがでてきた。我が家では私だけしか使っていないが、それでも気になる。
生協で注文していた宅配ボックスが届いた。これを置き配に使う予定だ。きっと便利になるだろう。

昼は避難所に戻ってきたが、弁当が届くのが遅れていた。
間に合わないため、春雨スープとお魚ソーセージとクリームのサンドされたチョコビスケットを食べた。
出発するころ、息子が午後の授業がなくて戻ってきた。私の分の弁当も取っておいてと伝えて家に帰った。

昼もバタバタしたが、かなり集中して仕事ができた。
簡易トイレを使うことで、精神的に落ち着いてきたのもあると思う。
指輪の発送メールが来て、指輪を楽しみに仕事を頑張った。
注文してから、発送、到着するまで時間があるほうが、ワクワクした気持ちが長く楽しめるから好きだ。

息子が私の分の弁当を部屋に置いてくれていた。
夜はご飯とたまごとじだった。
弁当にもご飯があるので、弁当とたまごとじを食べて、夜のご飯をラップにくるんで朝に食べることにする。ラップは避難してきた時から持ってきている。
朝にご飯を食べることがずっとできていないことに気が付いた。レンジがあるから温められる。
うまくやりくりできて、朝のご飯にできてよかった。
夫はいつものように、総菜パンなどを買ってきて食べていた。

母から電話があった。
父は義援金が振り込まれたかどうかの話ばかりする、とうんざりしていた。
この前申請したばかりだし、そんなに早くはないだろう。
せっかちすぎると、話し合った。

ダウンロードしておいたマンガを読んだ。
2回繰り返して読んだ。
私はやっぱり、マンガを読むのが好きらしい。
マンガの内容を脳内で繰り返すことで、すんなりと寝つくことができた。

いいなと思ったら応援しよう!