半世紀前から普通の人生に挑戦して、普通のおばあちゃんになった車椅子ユーザーの物語㉚
「幼稚園でのお付き合いって」
制服、リュック、体操着、上履きなどを買い揃え
手作りの通園バック、スモックの上着にアップリケや
教材、お道具箱の名前書き、いろいろな書類の記入、
入園式までの準備ってこんなに大変とは思いませんでした
お裁縫は大の苦手です
しかし、
「やらねばならぬ」と意を決してミシンを購入しました。
養護学校で少しだけ習った記憶があるだけです
ちんぷんかんぷんの糸通しから、縫い目の選び方とか、縫う速度とか
夜中に、説明書を見ながらミシンと格闘
ほとんど片手しか使えないので、
普通の人の倍以上時間がかかってしまいます。
1996年春
可愛い制服姿の長女と、
入園式ファッションの普通の車椅子のママ
希望に胸膨らませて
入園式の日を迎えたのでした
どんな幼稚園生活が待っているのでしょう
車椅子のママは幼稚園に通ったことがなかったので
娘と一緒に初めての経験です。
まあまあ、いろいろありました
「せんせい、おはようございます」
「みなさん、おはようございます」
幼稚園バスが家の玄関前に停まり、先生がバスから降りてきて
朝のごあいさつです
「いってきま~す」
「いってらっしゃい」
「よろしくおねがいします」
不安そうな顔で、それでも頑張ってひとりでバスに乗る娘を見送り
うれしいのか、さみしいのか、わからない感情で
目頭が熱くなった最初の登園日でした
これから、初めての社会の荒波にもまれることになる
長女と私の小さな船の出航です
「せんせい、さようなら」
「みなさん、さようなら」
「ただいまかえりました」
「おかえりなさい」
「ありがとうございました」
幼稚園にも少しずつ慣れ、
朝は不安そうに幼稚園バスに乗る娘ですが
午後にはとても元気に幼稚園バスから降りてきて、
その日の出来事を楽しそうに話してくれました。
初夏のある日、
水曜日は幼稚園にお迎えの日です
車から降りて、車椅子でお迎えに行くと
同じクラスのお母様が声をかけてくださいました
「こんにちは」
「○○ちゃんのママですよね」
いかにも「いいとこの奥様」風の、長い巻き毛をハーフアップにして、
フリルのブラウスにスカートというスタイルのママです
「はい、はじめまして」
「よろしくおねがいします」
例によって、思い切りの笑顔でこたえます。
しばらくすると子供たちが勢い良く教室からとびだして走り寄ってきます
「ママー」
「おかえりー」
「さあ、かえろうね」
すると、先ほどのママが
「今からお宅にお邪魔していいですか」
「子供たち、まだ一緒に遊びたそうで」
「え、」
初めてしゃべったのに、いきなりですか
ちょっと驚きましたが、
ママ友のお付き合いは大事
ここでむげに断るわけにはいかない
一瞬散らかっている部屋が頭に浮かび、気にはなったものの
「あ、いいですよ」
「ちらかってますけど、どうぞ」
ということで、そのまま私の家で遊ぶことになりました。
「これが普通の幼稚園ママ友のお付き合いだ」とちょっとウキウキ
ところが、さあ、たいへん
やっぱり世の中はきびしかった。