ラストマン ☆159
少し遅い正月休みは、TVerやDMM・TVでドラマを観て過ごした(いつも行く温泉にも行ったが)。
『グランメゾン東京』と『ラストマンー全盲の捜査官ー』その他である。テレビドラマだが、両作品とも制作費を十分に使っているであろう豪華な作りで楽しめた。どちらも初見である。
『グランメゾン東京』は2019年10月20日から12月29日に放映されていたらしいが、2019年の年末といえばコロナが武漢市で発祥した年であり、ドラマは主な登場人物たちが三ツ星レストランを目指す物語なのだが、一方で現実世界はそれどころではなくなってしまう皮肉なタイミングになってしまった。
私も当時は忙しくてドラマを見ている余裕なんかぜんぜんない時だったのをなんとなく覚えている。
でも、このドラマを見ていると、料理するのが楽しくなる。向こうは腕も食材も一流で自分とは雲泥の差だが、
世界の頂点を目指す凄腕フレンチシェフの尾花夏樹が(主人公だが)、フランスから帰国して、オーナーシェフの早見倫子宅に居候する事になり、最初に作って食べるのは倫子の母の糠床に漬けた香の物だったりして、やっぱりそこは和食を食べたいよな。
もちろんそれは、お客様に出す売物の料理ではなく賄いに過ぎないかも知れないが、
料理の味は、美味しさとは、やはり人の記憶が大きく関わって来ると思う。極めた舌を持っている人でも、母の味は忘らりょか、郷土の味覚は捨てようと思っても縋りついてくる。
私は港町で生まれ育った。若い頃、酒が好きで浴びるように色んな酒を呑んだものだが、
ある日BARでバーテンに勧められ、Bowmoerというスコッチを飲んだら見事にハマってしまった。Bowmoerというのは微かに磯臭いのである、つまり故郷につつまれたような錯覚に、痺れて抵抗出来なくなってしまった。
或いは、私の記事に「あんぱん ☆147」というのがあるが、ああいう素朴なものが無性に食べたくなる事もある。「あんぱんと牛乳」の相性は最高ではないか?これは子供の頃の味の記憶なのだろうか?
『ラストマン』の方でも、実は食べ物が大きな鍵を握っている。全盲のFBI捜査官皆実広見(みなみひろみ・福山雅治)は交換研修生として来日しているが国賓待遇で高級ホテルのスゥイートルームに宿泊して毎日贅沢なものばかり食べている。
でも、ちょっとミーハーで、日本の刑事ドラマが好きでわざと定番の「あんぱんと牛乳」を食べて喜んでいるのである。皆実広見だろうと尾花夏樹だろうと食べれば「あんぱんと牛乳」は美味いのだ。
皆実広見は子供の時は日本に住んでいたが、事故で視力を失った代わり、人並み以上に聴覚、嗅覚、味覚、記憶力、推理力が優れており、その知性の中核には心理学がある。
彼は何も見えないけれど、そんな事は彼には関係ないのだ。彼に対峙した人は、その声の抑揚や、微かな体温の変化を察知されてその時々の心境を丸裸に看破されてしまう。
事実、成績は検挙率No.1の凄腕捜査官、最後の切り札、「ラストマン」の異名を持っている。
そのラストマンがバディ(相棒)と認めた日本の刑事、護道心太朗に言うのである、「味と匂いはいつまでも覚えている」のだと。
してみると、子供のころに何を食べていたかは、その人の人生を左右するほど大事な問題なのかも知れない。
でもこのドラマで1番驚いたのは、寺尾聰が宇野重吉化(寺尾聰の父親)し過ぎていた事だろう。