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 あなた達が今後10年で最もセクシーなんですか(笑) 吉岡先生インタビュー後編:計算社会科学とシミュレーション

こんにちは。経済学AI研究会 マシンエコノミクスの代表のSです。

 当サークルは「機械学習の経済学への応用法を探り、それを本団体の内外で共有し、団体外の学生にビジョンを示すことを通して立命館大学に機械学習を応用した経済学の学習と実践を行うオープンな学生のネットワークやその拠点を形成する」ことを目指しています。

 その活動の一環として現在立命館大学に在籍している先生方にインタビューをしてお話を伺い、機械学習と経済学のこれからについての構想を共に考え今後の活動の道筋を探究しています。

 今回はそのインタビューの第2回目ということで立命館大学経済学部の吉岡真史先生にインタビューを引き受けていただきました。

 今回は前編・中編・後編の3つに分けてインタビュー形式でお伝えしたいと思います。

今回は後編です。

前編、中編はこちら

前編
吉岡真史先生と考える経済とAI 前編|マシンエコノミクス 経済学AI研究会|note

中編
人間は家畜になる?ロボットも失業する?吉岡先生インタビュー中編:技術倫理とシンギュラリティ|マシンエコノミクス 経済学AI研究会|note


ディープラーニング以外の機械学習?


代表
「ちなみに私たちは経済学AI研究会 マシンエコノミクスというミーハーな名前をしていますが、機械学習だけにこだわるつもりはなくて社会シミュレーションやネットワーク理論、社会物理学というような手法を実装・学習・研究するということをテーマにしています。

 これらは最近では計算社会科学と呼ばれるそうです。ですから、先ほどまでのディープラーニングとかビッグデータもメインなのですが、他にもシミュレーションとか、こういったことも加えてやっていけたら楽しいことができるのではないかなと考えています。

 そもそもあの私がこのサークル作った理由は、シミュレーションがやりたいというものでした。
 
 私はもともと株に興味がありました。最近、市場は効率的というよりは適応的(様々な投資家が市場への適応を競っており、その投資行動自体が環境を変化させ、ある時期に有利だった投資手法は変化した市場では優位性を失う、あるいは不利に転じるというもの)なのではないかっていうような考えが出てきています。

 これを知ったときに、あ、これは面白いなと思い、遺伝的アルゴリズムという生物の進化のメカニズムを真似したようなアルゴリズムを使ってシミュレーションやったらそういうことがモデル化できるんじゃないかなというような発想でサークルを作るに至りました。」

先生
「さっき言ったように、70年代のオイルショックあってですね。それまでは固定為替相場だったのが変動為替相場になり、80年代おわりぐらいに為替相場はどう動くかっていう研究が経済学でいっぱいされたのですよ。

 その当時としてはランダムに動く、為替はランダムウォークいう風な結論が80年代後半に出たのです。ところが後になって考えるとデータが足りないからランダムウォークしているように見えただけであり、2020年の段階ではもう評価が変わってきた。シミュレーションなんかも当然やってみたんだけども、いくらやっても為替は予測できないと80年代には思われたわけ。

 ところが今世紀に入って2011年くらいになったら、きちんとモデルを組んでデータを入れてシュミレーションすればきちんと説明できるのでオッケーですという研究もいくつかでてきています。今の話が為替レートでどう儲けるかにつながるとかはわかりませんが。

 株もですね、効率的市場仮説とか色々ありまして、効率的市場仮説のストロングフォームであったらインサイダー情報を持っていても株では儲けられないという話です。

 しかしこれもデータが足りない可能性があるのできちんと、もっといろんなデータを入れると実に的確に株価が予測できるようになるかもしれないですね。金融関係は特にデータがいっぱいあるので、AIで分析すれば何か新たな発見がある可能性もあります。

 単純にバックワードルッキングで、パラメータを推定してモデルを組んで、フォワードルッキングでいろんなシミュレーションをやってみて、どういう風になるのかというのを調べるのは非常に面白い戦略思います。」

副代表
「僕自身はその代表違ってこれをやりたいというその明確な目的は現状ないです。

 以前は遺伝的アルゴリズムに興味があったのですが、その遺伝的アフォリズムを東京大学の先生が実際にやっていて、個人的には他の分野に適用するのはなかなか難しいのかなと思っています。

 僕自身はベイズ統計学の学習を進めていきたいなと思っています。」

先生
「そうだね、ベイズ統計学は統計学というよりも確率論に近い話になると思うのだけど、AIとかマシン関係だと、新たな情報が加わる度にどんどんモデルの精度が高まっていくという点は非常にAIと相性がいいと思います。

 あと遺伝的アルゴリズムっていうのは初めて聞いたんでよくわかんないけど、進化論的アルゴリズムとはまた違うかな。」

代表
「多分進化アルゴリズムの一種が遺伝的アルゴリズムだと思います。」

先生
「進化論といえば進化論的○○というのがすごく変なことに使われる場合が多くなっちゃったからね。進化論って言えば、なんかなんでもかんでも子孫を残すという方向に解釈されてしまうこともあるし。環境に合うように意図的に進化したんだってよく言われますけど、これはもう全くの間違いです。

 遺伝も確率だからね。四方八方360°いろんな方向に進化してその中で一番フィッティングしたやつが残っただけであとはみんな死んじゃったというのが進化です。

 その点で言うと確かにフォワードルッキングで先にシミュレーションしてみて、どんなものがいいのかというのを見るのは面白いでしょうね。


 

そうか、あなた達がセクシーなんですかね


しかし日本の場合は統計から得られるデータっていうのが少ない。政府だけじゃなくて、他に業界も含めて統計的に処理されたデータっていうのはアメリカとかに比べて本当に少ないから、グーグルとかアマゾンとかに就職した方がいろいろできるかもしれません。

 Googleのチーフエコノミストだったハル・ヴァリアンが10年以上前にこの先10年間で一番セクシーな職業はstatisticianだと言いました。その2年後に統計課に勤めはじめてから「そうか、あなた達がセクシーなんですかね」というような冗談を言い合ったりもしました。

 しかしデータがいっぱい出てきたら、遣り甲斐があると思いますけどね。私はさっき言ったように少ないデータを上手に使って、一変数からその傾向を見出したりマルコフスイッチングモデルみたいなものをやったりもしていましたが、最近はそんなこと全然やってなくて、もういっぱいいっぱいいろんなアルゴリズムを使って、最後どういう結果が出てくるかというようなことをやっていまね。」

副代表
「データ分析といえば、今e-StatとかSSDSEとか使っているんですけど、どうしてもその欲しいデータっていうのが手に入らなくて困っています。」

先生
「私はe-Statの運営も昔やっていたけど、もうやっぱりどうしても過去との接続性みたいなのを気にしたりプライバシーの問題で存在しているんだけど出せなかったりというデータもいっぱいあるんですよね。

 さっき言ったように、もう取引の片方が市場である取引はプライバシーを補償する必要はないと思っているんだけど、なかなか日本ではそうは行かないね。」


シミュレーションと経済学

代表
「そういう意味ではとシミュレーションなんかデータがなくても結構できるので、むしろ私はこっちの方が将来性はあるんじゃないかなって思っています。」

先生
「ベイジアン的にパラメータを適当にいじくってどんどん修正したり、うまくフィルターを設定して、シミュレーションで乱数発生させたりしてやるというのも個人的には一つの手かなと思います。」

代表
「個人的に気になっているシミュレーションがマルチエージェントシミュレーションでして。

 これは先ほどのような自己進化するAIといいますか自分で行動を最適化するようなAIを何回も何個も同時に配置して、お互いに関わらせてどういうふうに状況が変わっていくかをシミュレーションするやり方です。」

先生
「これなんか結構面白そうだよね。」

代表
「これはゲーム理論と相性がいいんじゃないかと最近思っています。人数が多くなって来たり、戦略の幅が多くなってきたりすると手計算で計算ではできなくなってきますが、シミュレーションで無理やり無数にある戦略のパターンからピックアップに値する戦略を抽出するというようなことはできるんじゃないかなって思っています。」

先生
「N対Nのゲーム的状況で何回も無限の繰り返しを実験すると本当にしっぺ返し戦略が正しいのかどうかって言うのもわかりそうですね。」

代表
「アクセルロッドのコンピューターシミュレーション実験なんかも面白いですよね。確かアクセルロッドさんはいろんなコンピュータープログラムを戦わせて、それで最強だったのがしっぺ返し戦略だったと思います。」

先生
「そういうようなことができたら面白そうだよね。今のところのゲーム理論では、その自主的にしっぺ返しが最強だと言われているけど、これもちょっと現段階で決めつけるのは危ないんじゃないのかなと思っています。そこらへんなところで、なんか新しいな気付き発見があったらノーベル賞も夢ではないかもしれません。」

副代表
「最終的にはやっぱり汎用型aiに向かっていきたいですね。」

先生
「そうですね、シンギュラリティ向かって進んで、われわれはみんな動物園に入るということですね。サファリパークみたいにここは人間の天然保護区ですってなるかもしれません(笑)」


終わりに

今回は吉岡真史先生にお話しを聞かせていただきました。

かなりの長編になり、前編、中編、後編の3つに分けてお届けしました。

あと15年ほど経ったら、今回の話題に上がった内容の答え合わせができるかもしれませんね。

また個人的には技術倫理の話は普段あまり考えていなかったため斬新でした。

 科学・技術はニュートラルであり、それを有効活用するのも悪用するのも使用者次第です。


吉岡真史先生、この度はありがとうございました。

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