私が買うのはレンタル(落ち)CDじゃなければならなかった。
そもそもCDレンタルって?という方もいそうなご時世かと思うので、説明すると以下の通りになります。
これはTSUTAYAで買ったレンタル落ちCDの話です。
レンタル落ちCDなんて単なる中古品、ともすれば色んな人の手を経て、レンタルとしてのシールやなんかも貼られて、単なる中古品よりも状態の良くないものもある。
新品を買うほどの熱量はないけど安いから。何らかの理由からコレクターズアイテムとして。買う理由はそれくらいじゃなかろうか。
私の場合、強いていうならば後者の理由に近いのだけど、少し趣きが違うので、結局のところどういう買い物をしたのか書き残しておこうと思う。
2015年。地元には5店舗ほどのTSUTAYAがあった。そのうちの3店舗を、たまの利用ではあるものの、あの映画はあの店舗、このCDはこの店舗にしかない、という風に使い分けてお世話になっていた。数年後にはTSUTAYAが一部店舗でのレンタル業を廃止し、地元の店舗も半減することになるのだが、知る由もなく、レンタルCDのラインナップを眺めていたある日のこと。
最寄りではないその店舗に初めて訪れ、見慣れない配置に右往左往しながら「B」だったか「は」だったかのコーナーを探した。この後の衝撃が大きかったものだから、細かいことは覚えていない。
ともかく、その「B」もしくは「は」の棚の前で「THE BOHEMIANS」のCDを探し出した。最も愛するロックンロールバンドのCDである。
普段ならば、品揃えを確認して、発売順の並びに直して終わるのだが、その日は違った。
棚からメジャーデビューアルバム「憧れられたい」と翌作「THIS IS POP!!!」を取り出した。デジパック仕様、いわゆる紙ジャケットのそれらはレンタル用のプラケースに入れられていた。最寄り店舗では見かけない仕様だった。プラケースの一部は帯を入れられるよう二重構造になっており、その隙間に噛ませるようにして正面に黄色い紙が挟まっている。
その黄色い紙を見つめた。何秒だろう。一度だけ、不審に思われやしないかと周囲を確認し、再び見つめた。結局、1分くらい経ったのだろうか。棚に戻してその日は帰ったと記憶している。
黄色い紙には三行の文章が記されていた。彼らを絶賛する宣伝文句だった。
バンド公式でも当時のレーベル公式でもない、TSUTAYA独自の宣伝文句だった。
形容しがたい気持ちになった。その紙が欲しくて堪らなかった。
手に取り見つめていた間、スマホで写真を撮っておこうかとも考えたが、何がどうしてそれでは気が済まない。
2011年夏から彼らのファンではあるものの、当時はすこぶる体調が悪く、インターネットや雑誌だけが彼らに関する情報源で唯一の体験だった。治療が効いて徐々に体力が付き始めた2014年、大きい会場から少しずつ様々なライブへ足を運ぶようになっていた私は、THE BOHEMIANSのライブ感想やネット情報があまりにも少ないと感じていた。
どんなファンがいるのか、ファンがどんな風にライブを楽しんでいるのか。可視化されることでライブに行く観客は増えるだろうに、推し活(当時は今ほどの汎用性がなかったと思うが)の一環としてSNS投稿をしているようなオープンアカウントもほとんど見付けられなかった。むず痒い思いをし続け、翌年2015年。じゃあ自分で呟くわ今年はライブに行けそうだし、不足があったり気に入らなかったら皆がもっと呟けばいいんだ、THE BOHEMIANSにまつわる言葉がもっと増えればいい、とSNSを始めた。
そんなきっかけでSNSを始めるような人間だ。彼らにまつわる言葉にとにかく枯渇していた。当然、彼らのことを褒めているものなんて好きに決まっているし、欲しかった。まるで証拠のように手元に置いておきたかった。
そして、おそらくTSUTAYAにはとても好ましいセンスを持つ方がいるのだろうなと嬉しかった。
しかしレンタル品である。レンタルする際はケースから商品を取り出すためその紙は持ち帰ることが叶わず店頭で眺めることしか出来ない。
最寄りの店舗には置かれていなかったそれを眺めるためだけに遠いその店に何度か足を運んだ。そうこうしている内に季節が変わり、年も明けた。
更に季節が移り変わろうとしていた頃、SNSに私はこんな投稿をする。
私が眺め倒した2枚のレンタルCDはレンタル落ち品にはなっていなかったし、それらを置いている店舗は当時閉店していない。タイミングが良かった、或いは運が良かったのだと思う。
小春日和だったこの日、最寄りの店舗の屋外で沢山の段ボール箱が広げられていて、何かと思えば当時閉店した別店舗のものも含めたレンタル落ちCDやDVDのセールが開催されていた。
その別店舗は一度も立ち寄ったことがなく、ラインナップを知らないので、何か掘り出し物はないかしらとうろうろと眺めていたら、あったのである。
全く予期していないことだった。てっきり帯もないような商品だけが売られているのだと思っていたから、黄色い紙が入ったプラケースごと売られていることに感激した。手に取り、表裏をひっくり返し何度も見た。
時間をかけて手の中にあるものが本当にそれだと実感して、やっとレジへ向かった。
そんな訳でだいぶ浮かれて呟いていた。あれから8年近く経つ今でも、棚に収めた2枚のCDを見るたびに心は浮き立つし、時々取り出しては黄色い紙を眺めている。ゐゑ〜ゐ!
以上、黄色い紙のためにレンタル落ちCDを購入した話でした。
後にあの黄色い紙の文言は実際にTSUTAYAのとある方が書いたものと知り、その方が館長として勤められている店舗でこっそりお買い物も済ませるのだけど、それはまた別の話。