フレンチレストラン〜前編〜

渋谷駅から、徒歩5分。
金曜日の夜19時半。
高層階ホテル25階にあるフレンチレストランに男女二人はいた。

前菜は、春のサラダ。白い清潔感のあるお皿に筍、菜の花、アスパラが並べられている。
メイン料理は本日のお魚に、春キャベツとホワイトソース。
白ワインにデザートにはアップルパイが出されたようだ。

この二人実は今日会ったばかりの初対面で、ニ週間前、二人の共通する友人の紹介で知り合った。
男は気さくで気取らない、人柄の良さが滲み出るような人で、本当はフレンチ料理店など行ったこともないし、よくも知らないのだった。

ただ、少しかっこつけたい、少しどころか沢山かっこつけたい。それが男心、本心というもので、25階のレストランを選んだのは、高いのところに登ったら楽しいんじゃないか、高い所が好きというなんとも少年のような心意気からであった。

きっとこの店を選び、美味しい料理を食べたら彼女は喜んでくれるだろう。
男は、期待に溢れていた。

コース料理を向かい合って食べながら、
二人は自己紹介も含め、取り止めのない話をした。料理は確かに美味しいのに、緊張が解けないのかなかなか話が盛り上がらない。

男は25階の窓から景色を眺めて、こう彼女に話しかけた。

「あれ。向こうに見えるの、東京タワーかな、その奥に海っぽいのも見えるよ」

彼女は「ふーん」とした顔をして、男の話は上の空。ひたすらに料理や景色の映えた写真を載り続けた。きっとその数日後、撮った写真たちは友達と行ったレストランと言ってSNSにアップされるのだろう。

そもそもこの女性、なぜこの男と会うことになったかというと彼女は最近彼氏と別れたばかり。次の相手を探していた。友達にこの男を友達に紹介された時、彼女は聞いたという。
「彼の良いところってどこ?」と。
「身長が高くて、肩幅が広い、男らしいかな」と言われてるとなるほどと言って連絡先を聞いたという。

そろそろ食事も終盤に差し掛かってきた。
どう頑張っても男は彼女の好みの相手ではないらしい。彼女は容姿も綺麗で、他に構ってくれる人がいるのだろう。

男は冴えない彼女の顔を見て、
おおよそ彼女がなぜ自分と会おうとしたのかに気づいた。
そして慣れないレストランを張り切って予約したことに何のロマンスも感じられないことにショックを受けた。

彼は感性も豊かで、人の心がよく分かる優しい男だったのである。

*後編へ続く*

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