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バンカラ女子の夏 夏の残り火


 あざみさんはバイクから小さな焚き火台を取り出して砂浜に置くと薪を置いて火を付けた。
 しばらくふたりで火を眺めた。
 もうすぐ夏が終わると思うと切なくなった。あざみさんはまた旅に出るのかな。


 夏の海は真っ黒で怖い。潮騒を聞きながら空を見上げると満天の星が輝いている。
 あざみさんは夜空を指差して言った。
「あれがデネブでしょ。あれとあれがアルタイルとベガ。夏の大三角だよ」
「そうなんだ。詳しいね」
「うん、旅の途中でよく夜空を観たから調べたんだ。羊蹄山で観た星はきれいだったな」
 私はあざみさんの旅に想いを馳せてロマンチックな気持ちになった。私の知らない世界。きっと大変なんだろうけど。
「星を観ながらみさきちゃんのこと思い出したりしたよ」
「私は毎日思い出してたよ」
「そっか。ありがと。あたしね、日本海の浜辺で夕日に向かってみさき~って叫んだこともあるんだよ。聞こえなかった?」
 そんなの聞こえる訳ないじゃないですか~って言おうと思ったけどやめた。
「ちゃんと聞こえたよ。心の声が」
「そっか。やっぱうちら通じ合ってるね~」
 あざみさんはうれしそうに笑った。
 そういえばたしかにそんな声が聞こえたような気がした。
「じゃ今からテレパシー送るね」
「え?」
 あざみさんはそう言って目をつぶった。
「……どう?ちゃんと届いた?」
「う~んまだかな」
 あざみさんは薄目を開けると私の額に自分の額をくっつけた。    なんだかこそばゆくて笑ってしまう。
「はい、ちゃんと届いたよ。今度は私の番」
 今度は私がぎゅっと目をつぶって本気で念を送った。
「送ったよ」
「う~ん届かないな」
「じゃ、お返し」
 私は真似っこしてあざみさんの額に額をくっつけようとしたら、勢い余ってゴツンとぶつけてしまった。
 私たちはしばらく笑い転げた。
「ふふふ、届きました?」
「うん、来た」
「じゃせ~ので答え合わせしましょ」
「うん、いいよ」
「じゃ、せ~の」
「好きだよ!」
 空には満天の星が煌めいていた。






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