記事一覧
フランコ時代のサラマンカデートコースガイド 「ベルタへの9通の手紙」(バシリオ・マルティン・パティーノ)
映画はマチャードの詩 " Españolito " で始まる。これは各地域のナショナリズムが盛り上がった『2つのスペイン』を嘆いたものだが、フランコ時代に入って二重の分断が重なって見える仕掛けになっている。そもそも2つのスペインlas dos Españasは厳密には3つに分けられるそうだ。①労働運動に端を発した左右軸②カトリシズムと反聖職者主義③中央集権と地方主義。これらがロレンソの身辺雑記を交
もっとみる広場の孤独『大通り』(フアン・アントニオ・バルデム)
フアンは博打仲間の悪友に唆されて、一回り年上のイサベルを惚れさせようといたずらを始める。イサベルは大喜びでフアンと婚約するが、あとに引けなくなったフアンは罪悪感にかられて自殺を考えはじめる。
窓ガラスの向こうを行ったり来たりする人びと。あてどもなく街を回遊するだけの若者たちが、ふと思いついた他愛ない残酷なゲームにのめり込む不穏な一本。会話の合間に知り合いとすれ違いざまいちいち挨拶するのだが、ほと
グレイビーおかわり ステイシー・キーチの兄弟映画2本
『ゴングなき戦い』を見てきた。かなり食らった。『ザ・デッド』も初めて見たが、こちらもあっという間の撮るべくして撮られた遺作。『賢い血』と並べてこれでヒューストンベスト3決定。
で、ステイシー・キーチについて記事書いたあと、引き続き70年代前半のキーチを漁っていて見つけた日本未公開、未ソフト化の傑作テレビ映画2本をレビューしておく。どちらにも共通するのは、①兄弟、②グレイビーソースに目がない。
『ペパーミントフラッペ』(カルロス・サウラ)(1967)
カルロス・サウラ監督長編4作目。ジェラルディン・チャップリン初出演で以降計8作に出演する。チャップリンはブルネットとブロンドの二役で、一見ヒッチコック『めまい』を再演しているかのよう。ケミカルな緑色のフラッペを皆美味しい美味しいとがぶがぶ飲み、吹き抜けの螺旋階段を見上げ、ぐるぐる回るカメラが加速していく。映画の最後の献辞で同郷人ルイス・ブニュエルに作品を捧げているのでこのあたりをたどっていくことに
もっとみる1970年の競演 ステイシー・キーチvsバッド・コート
ステイシー・キーチとバッド・コート。70年代の傑作映画に相次いで出演した二人の名前を見てわくわくするなら、二人が共演した1970年公開の二本を見ない手はない。これがどちらも驚くべき傑作。
共演したといっても実際に二人が揃って画面に映る時間は少なく、めいめいが主役を取った映画にちょっと顔を出して様子をうかがった、そんなふうにも見える。なぜかどちらも険悪な仲なのがおかしい。
今週から菊川の映画館St
エロイ・デ・ラ・イグレシアの冒険
Eloy de la Iglesia (1 January 1944 – 23 March 2006)はオープンリーゲイの映画監督。サスペンスを得意とし、民主化移行期から随所にクイアな人物や視線を交錯させた、一風変わった作品を作った。
最も精力的に活動していた70年代から80年代にかけて4作品を選んで、以下あらすじをかいておく。
El techo de cristal (The Glass Ce
フランコスペイン時代の検閲
フランコ時代の映画検閲は明確な基準を持たず恣意的な運用で制作者たちを悩ませ続けた。個別の作品への運用と受容まで見なければ制度そのものを捉えることは難しいが、ひとまずその手がかりだけでも触っておきたい。
検閲の歴史
『フランコ期の映画における政治文化』(大原志麻)はベルランガのフィルモグラフィーとスペインの検閲について書いた重要な論考。PDF→https://shizuoka.repo.nii.
スペイン映画が見放題!映画配信サービスFlixOléと70年代スペイン映画のFURTIVOな世界
もうすぐフランコ独裁体制が終焉してから半世紀となる。そこで民主化以前のスペインを手っ取り早く知ることができる映画配信サービスを紹介する。
スペイン映画見放題だよ、オーレ!!映画4000本が見放題のスペイン最大の配信サービスFlixOlé!
Netflix, HBO、Primeと並ぶサービスを目指して2018年リリースされ、スペイン製作作品が80%、残りは米大陸、欧州製作作品を含む豊富なラインナッ
アントニオ・サウラとアンフォルメル
カルロス・サウラには兄がいた。いや順番から言えば、現代美術家アントニオ・サウラにはカメラマンの弟がいたというべきか。
カルロスがカメラに夢中になっている頃、アントニオは抽象画の世界に巻き起こったムーブメントの一翼を担い精力的に作品を発表していた。美術わけても現代アートは苦手なのだが、カルロスとつながりそうなところを睨んでつまんでおこう。今週末からカルロスの遺作で壁画についてのドキュメンタリーが公開
『密猟者たち』(1975) ガオス!
カンタブリア州で実際に存在した男がモデルになったらしい。カンタブリア州はかつてラモンテーニャの名前で知られた山岳地帯で、アルタミラ洞窟が観光名所になっている。60年代から活発になった自治運動が実を結び81年にはカスティーリャ=レオンの準自治州から脱する。この地域も変化の時期にあったのだろう。山奥に住む素朴な母子に新旧相容れない異なる価値観の衝突を演じさせて、移行期を代表する傑作が生まれた。
深い
"Cada ver... es"(1981)死者の中から
『死者の奢り』を読んだとき、検体はみなショーケースのような水槽にプカプカ浮かべるものかと思った。ところが現実はさにあらず。
太陽とビーチのバレンシアにもモルグはあって、管理人は少し変わっている。燦々と日差しが照らす中、締め切った部屋の一室は蛍光灯の硬い灯りで照らされて、それは床下のプールに収納されている。利用時にはフックを首に引っ掛けてウィンチで巻き上げれば、少ない労力で出し入れが可能だ。
大学
『恍惚』(1979)とある中毒者の記録
映画を誰と見るか。劇場で見るのならまず間違いなく周りに他の客がいる。自宅で見るのなら文字通り一人で見ることが可能だ。言うまでもなく今日では映像を見るのに映写機さえ必要がなく、この文章を書いているスマホで動画を見ることに慣れてすでにどれだけの時間がたったことだろう。
映画についての映画である。フランコ死去後ようやく検閲が撤廃され、それまで半世紀近く見られなかった海外の名作を見るため劇場に詰めかけた
トッド・ソロンズ初期作品
アカデミー賞脚色賞とったアメリカンフィクションが面白かった。でだいぶ趣は異なれど、これを見ながら思い出したのがトッド・ソロンズのオムニバス『ストーリー・テリング』の一遍『フィクション』であった。大学の創作クラスで教師を務める中年男性を底意地悪く描いた話で、今回見直す気にはならなかったものの、多数派への帰属意識が希薄、というよりはっきりと拒絶された視点を足がかりに映画を撮り続けてきたソロンズの原点を
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