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ベツレヘム(パレスチナ)の壁に描かれたバンクシーアート

この記事は、私が旅行者として実際に行った場所などの経験について書かれています。イスラエル/パレスチナいずれかの立場に与するものではありません。

はじめに

バンクシー。日本でも名前を聞くことが多くなりました。
メッセージが込められた絵を見せるタイプのアーティストです。
バンクシーはイギリス人です。イギリス人として、パレスチナの抱える問題には、彼なりに思うところがあったのでしょう。ベツレヘムには、メッセージ性を帯びた彼の絵がいくつか残されています。
イギリスとパレスチナには、近代の歴史で深いかかわりがあるのです。
(この辺の話は、知れば知るほど、どんよりさせられというか、考えさせられることが多いのですが、それはともかく、詳しい内容はWikipediaでも見てください。)


行き方

ベツレヘム市内にあります。
ほとんどの作品は市街中心地から歩いて行ける場所に固まっているのですが、ひとつだけ歩くにはやや遠い場所に描かれたものがあります。そこへはタクシーで行くしかありません。
タクシーはものすごくたくさん走っています。旅行者が街中でぶらぶら歩いていると、向こうから寄ってきます。

描かれている場所

パレスチナ分離壁に描かれた一枚を除き、ぜんぶ私有地の壁に描かれています。私有地ですが、べつに入っていって作品を見に行っても、とくに問題ありません。そもそも観光客がたくさん来ることは所有者の人も分かっています。

バンクシーの絵が公開されていることの意味

私有地に描かれているので、私有物です。
でも、そもそもなぜ私有物でもあるバンクシーの絵を私たちに公開してくれているのでしょう?
たまたま所有者の方のひとりと話す機会がありました。
バンクシーのオリジナル作品はオークションで数億円の値段が付くこともあります。もし売れば大金を手に入れることができます。実際に売った人もいるそうです。
私が話した人のところにも、数年前にカリフォルニアの富豪がやって来て、豪邸が何軒も建つような値段で絵を買いたいと言ってきたそうです。でも売らなかった。こう言ってました。

絵を売ってお金をもらっても、自分が贅沢してそれで終わってしまう。それよりも大事なのは、いろんな国の人に絵を見に来てもらって、私たちの国のことや置かれている状況について、絵を通して知ってもらい考えてもらうことだ。そのほうが、我々の子供たちの将来にとってもよっぽど意味がある。だから売らなかった。

バンクシ―の絵

実際に見てきて撮った絵の写真を貼っておきます。

オリーブの枝をくわえて飛ぶ鳩

おみやげ屋さんの入口に描かれています。
ベツレヘムにはキリスト教関係の聖地がいくつもあって、ヨーロッパから巡礼者が観光バスでたくさん来ています。おみやげ屋さんに寄って、地元の石鹸や香水やらを買っていきます。そんなおみやげ屋さんの入口の駐車場の脇の壁に描かれています。
お客さんたちは巡礼者なので、べつにバンクシーに関心があってベツレヘムに来ているわけではありません。なので、私が写真をぱちぱち撮っていても、こいつ何やってんだ?という目で見られました。ガイドさんに説明されてようやく、その巡礼の人たちも写真を撮り始めましたが。

平和っぽい雰囲気の鳩なのに狙われている。防弾チョッキを着ている。

兵士をボディチェックする少女

こちらは、上の鳩の絵とは別のおみやげ屋さんの中にあります。
もともとは農家の納屋の壁に描かれていたそうです。その納屋に接する形で建物を作ったため、いまはそのおみやげ屋さんの建物の中にあります。
おみやげ屋さんには、バンクシーグッズも、もちろんあるにはあるのですが、メインは巡礼者向けのお土産で、あえてバンクシーで商売している感じでもないようです。私が行った時も、巡礼で来ているカトリックのシスターさんに香水の売り込み中で、忙しくしていました。
バンクシー?ああ、見るなら見てっていいよ、という軽い感じでした。

お土産が並んでいる壁にいきなり現れる。
兵隊と少女を、いつもと逆の立場から描いている。

壁を開けようとする天使たち

パレスチナ分離壁に描かれています。別の記事にしました。

花束を投げる青年

上の3点はそれぞれ近い場所に集まっているのですが、この作品だけはすこし離れた場所にあります。
ガソリンスタンドの壁に描かれています。野ざらしです。すぐ横には洗車機もあったりして、絵を置いておくのに適した環境というわけでも特にないです。まあ、それも込みでこの場所に描いたのでしょう。

奥に見える洗車機と比べると、けっこうな大きさなのが分かる。

見る人が見れば、インティファーダをモチーフにしたと分かります。インティファーダのことを知っていれば、石を投げるのではなく花束を投げられるような世の中になるといいよね、というこの絵に込められたメッセージが読み取れます。
インティファーダについて、パレスチナに行く前に調べたりしましたが、知れば知るほど、なんともやるせない気分にさせられました。

おわりに

バンクシーの絵が描かれた場所が、ふつうの人たちがふつうに日常生活を送るような、ごくありふれた街中にあるのも、意味があることなのでしょう。
地図で見たりニュースで耳にする地名は、何気なく聞き流してしまうと、単なる記号にすぎません。そんな場所に実際に行って見ることで、そこにはふつうに日常生活を送るような、我々と似たような普通の人たちが住んでいることを、改めて感じさせられました。

バンクシーが言いたいであろうメッセージは明確です。
言葉ではなく絵で表されてるだけに、メッセージが抵抗なくすんなり入ってきてしまうかもしれません。ただ、そのメッセージについてどう自分で受け入れ考えるかは、見た人それぞれに委ねられているのだろうと思います。

地元の人が、描かれた場所に絵をあえてそのまま置いていること、そのことにも意味があります。見て感じて自分で考えること。絵を公開してくれている地元の人たちは私たちにそれを求めているのでしょう。

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