Y4-3. 石づくりドライドック1-3号
ゲートに「A」と書かれているのがドックで、
右から1号ドック、2号ドック、3号ドック。
■艦船大型化の足跡
1-3号ドックを少し詳しく見てみよう。 一般にドックは、
・船舶建造用ドック:船舶を建造するためのドックで、海に向かって船台がスロープになっており、ゲートで水が止められている。
・船舶修理用ドック:船舶を修理するためのドック。海に接して掘られ、ゲートで水面と分けられている。底面はほぼ平坦。
の2種類に分けられ、構造的に見れば、以下の2種類がある。
・ドライドック:土地を掘削して地面を掘り、船を引きこんで排水して修理を行う
・フローティングドック:海上に箱型のドックを浮かべて使用する
横須賀製鉄所のドックは、修理用のドライドックで、ドックのゲートを開けて船を引き入れ、ゲートを閉じてポンプで排水し、船体を露出させて修理や点検作業を行う。
1-3号のドックがつくられたのは1号(明治4年、137メートル)、3号(明治7年、96メートル)、2号(明治17年、151メートル)の順で、この大きさは、当時の戦艦-駆逐艦-巡洋艦を想定したものと予想されている。
1号ドックは当時の欧米の大型戦艦4,000~5,000トンクラスに合わせて建造されたもので、この大きさの戦艦の入渠・修理が可能だった。
その後、機動力があって小回りのきく駆逐艦の時代があり、最後につくられた2号ドックは、艦船の大型化が急速に進み、大きなドックが必要になったことを示している。
この艦船の大型化競争はこの後も進み、20年後の明治38(1905)年の4号ドックでは全長240メートル、大正6 (1916) 年に建造された5号ドックでは324メートル、昭和10(1940)年の6号ドックでは366メートルと拡大していく。
こうした大型化の流れは止まらずに、航空機の時代が明らかになり始めた1940年代になっても、大和、武蔵という巨艦建造へのこだわりが続いていた。
■地震にびくともしない土木建設力の凄さ
現在、1-3号のドックは日米の共用に供されており、自衛隊の艦船のみならず民間の修船にも使用可能だ。
それにしても建造以来150年近くたって、まだ現役というのは奇跡だ。
石材はいずれも、伊豆・小松石や相模産の安山岩の石材で、500×500×1,000ミリのサイズ。
150年経った現在も、摩耗は見られるが全体にしっかり機能しており、耐候性、耐海水性も問題なし。
石積みの間をつなぐ目地にはコンクリートが必要だが、1号ドックでは輸入コンクリートが工事費の半分を占めたため、ドックの裏面は消石灰・火山灰を混合したベットンと呼ばれるものを使用した。
コンクリートが国内で生産されるようになるのは明治8(1875)年からである。
ドックに船を引き入れてゲートを閉じれば、渠底や渠壁には水+艦船の重量の負荷がかかる。排水をすれば、渠壁には逆に周辺の地面からドックを内側に押し出す荷重がかかり、渠底には艦船の荷重がかかる。
ドックにはこの耐荷重を持ちこたえる強度が必要である。
地震が多発する環境のなかで、この両荷重に耐えながら、水漏れを防ぎ、寸法を保ち続けるには、しっかりした構造設計と施行が不可欠だ。
このことだけでも、明治初頭にこうした土木建築物を作り上げた、先人たちの技術力に驚きを禁じ得ない。