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058.ベーリック・ホール

■公邸も兼ねた?スペイン風の大きな洋館
一見して、みたことがあるような既視感にとらわれそうな建物だ。日本人が洋館をイメージしたときに、思い浮かべそうな建物ということかもしれない。前庭が広く、余裕の感じられるゆったり作られた建物も外国をイメージさせるのだろう。
前面の、上部が円形になった3連のアーチや玄関ポーチのデザインは、山手111番館とそっくりなスパニッシュスタイルで、アメリカ出身のJ.H.モーガンによるものだ。日陰で見にくいが軒下のタイルの装飾も特徴的で、2階の窓を挟んで見える四つ葉の形の窓はかわいらしい。

上部が円形の1階の窓、玄関ポーチが特徴的。

玄関ポーチを中から見たところ。壁に床の間風の棚が作られている。
タイルとともに和風意匠が面白い。

建てられたのは昭和5年(1930)で、名前の由来にもなっている施主のベーリック(Bertram Robert Berrick )は明治31年(189B)に来日したイギリス出身の貿易商で、フィンランド名誉領事も務めた。そうした経緯から、要人を迎える公邸としての役割をもたせることを意図して設計したものだろう。
建物は東西に広がって大きく、庭が南面にあり、南北の奥行は大きくないために日当たりの良さを生かしてどの部屋も明るい。そのためか、建物全体が非常に暖かな雰囲気を持っているのが特徴と言える。

■大きな間取りの落ち着いた部屋
 1階は、食堂とキッチン・配膳室と大きな居間・パールルームと名付けられた休憩室からなる。
食堂には中央に大きなテーブルと椅子が八脚、大きな絨毯は居間とも共通のデザインでこれも見事だ。食堂は配膳室に続くドアがあり、配膳室の奥にはキッチンが。真っ白な琺瑯の洗い場も含めて大人数での食事会にも対応できそうな規模で、たくさんの調理士、サーバーが忙しく仕事をする姿が想像できる。

1階の食堂。南向きで広々としていて明るい。西面に暖炉がある。
右端にドアはキッチン、配膳室へのドア。
食堂から配膳室を見たところ。大きな一枚の絨毯がしゃれている。
これは後日追加されたものか。

居間には、ピアノが置かれていて、今はウエディングやコンサート、レセプションなどのイベントにも使われている。申し込めば誰でも使えるようだ。立食のパーティならば、100人くらいは入れそうな広さだ。南を向いた表側にの中央に暖炉があり、四角い煙突が外からも見えるようにつけられている。上部が丸い窓は装飾も落ち着いたもので、雰囲気をだしている。この部屋のじゅうたんも大きな一枚織物で、見事だ。

居間。右が前庭で、前庭から見える煙突は、右面にある暖炉のもの。

反対側にはこの居間のサブルームのようにパームルームがあり、居間の混雑から外れて暫時の静かなひと時を楽しむことができるようになっている。パームルームの西面に設けられた壁から出た獅子頭の壁泉が珍しい。何を狙いの蛇口なのだろうか。

居間の北面にある、パームルーム。居間用の休憩室。
西面に壁が作られ獅子の形の吹き出し口が作られている。

■寝室を備えた4つの大きな部屋
 2階は、1階から上がった先の北面に通しの廊下があり、西から、子息の部屋、来客用の寝室、主人の書斎・寝室にサンポーチを備えた夫人の寝室・サンポーチなどがある。いずれも浴室を備えて広く、シンプルな中にもぜいたくな余裕が感じられる。各部屋は南面向きで明るく作られている。

客用寝室。壁の色が独特。

庭から見ると、特徴的に見える四葉の形の窓飾りは、中からみてもユニークで、装飾のかいに少ない部屋のいいアクセントになっている。この辺りのデザインは出しゃばらずに控えめでありながらしゃれて好ましい。フロアーのタイルも工夫されていて、ことさら装飾をしなくても、しゃれて感じられるのは、モーガンの基本的なデザインが優れているということだろう。 こんな部屋にいちど泊まってみたいという気にしてくれる。

主人用の書斎・寝室。明るくて窓の飾りもすっきりしている。
婦人用の寝室と、下は部屋の左に見えるサンポーチ。

ベーリックの没後、この住居はカトリック・マリア会に寄贈され、セント・ジョセフ・インターナショナル・スクールの寄宿舎として使用された。ベーリック・ホールの名称は、マリア会の命名によるらしい。いまの広さなどを考えれば「ホール」の命名はイメージに合っている気がする。

・横浜市指定歴史的建造物
 建築年代:昭和5年(1930)
 設計:J.H.モーガン
・中区山手町72
・TEL.045-663-5685
・9時30分~17時(7~8月は18時まで)
・第2水曜(祝日の場合は翌日)・12月29日~1月3日休館
・入館無料

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