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6-8. 儲け過ぎは身を滅ぼす。「安く仕入れて高く売る」は商売の本質ではない。

岩谷産業会長 岩谷直治

 目の前に大儲けの甘い水があると、人間どうしてもその甘い水を飲みたくなる。
 しかし、そうやって、甘い水をすぐに飲みに行く人間で、大成したという話をあまり聞かない。

岩谷産業は戦前から溶接用のカーバイドを扱っていたが、戦争の混乱の中で同業者の多くが商売を変えて業界から去っていった。そんな中で、岩谷は会社が爆撃を受けた時でも細々と製品を供給し続けたという。
「戦争直後も、物資不足に乗じて大儲けして、もっと儲かる商売に転業した同業者もいたが、私は従来どおり続けた。そのおかげで、ユーザーから絶大な信頼を寄せていただき、今日の岩谷産業ができた。」

その基盤は、大儲けするチャンスに乗らなかったことにある。
その経験から岩谷は、

「儲けすぎては駄目だ。商売のコツを『安く仕入れて高く売ること』と言う人がいる。が、これは商売の本質を見誤っている」

と言う。
商売には売り手と買い手がいる。それぞれ立場が違うから、売るほうは買い手の立場に立ってモノを考えてみる必要がある。自分本位にばかり動いていると、ユーザーに見離されてしまうことになる。

 岩谷は、駆け引きに頼らず、信用を大切にして長期的に「損して得とる」のが商売の本質ではないかと言っているのである。
 商売は駆け引きではないと言うのは、本田宗一郎も同じである。本田の言葉の中に、
 「売りやすい商品を作ることがコストダウンの基だ」
というのがあるが、これはそうした思いを伝えたものだ。

 安くすれば売れると考えがちだが、本田は逆に、売れれば安くできると言う。商品が売れるかどうか、それはお客さんが買いやすい商品かどうかで決まる。だからお客さんがほしがる商品を作っていけば、それはやがて量が出て価格も安くできるというのである。

 営業部門は価格を下げなければ売れないと言い、開発・製造部門は量を売らないと価格は下げられないと言う。これでは、どこまでいっても、イタチの追いかけっこである。
どこで線を引くか、本田は「いい商品を作れ」と言うのである。
これは、ホンダはニーズに応えた商品を作ってきたという自負でもあるが、逆に、ニーズなどにはおかまいなく小手先でごまかそうとする商品がいかに多いか、ということでもある。

 商品開発やマーケティングで、「営業の言うことを聞くとあまりうまくいかないことが多い」と言うのは、ユニークな商品開発とコマーシャルで話題を集める日清食品の安藤宏基である。


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