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014.綜通横浜ビル(旧本町旭ビル)

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物014本町通り周辺≫
*表側に昭和5(1930)年に建てられたビルの外壁が生かされています。平成7(1995)年に建て替えられた際に、新しいビルの外側に旧ビルの外壁が取り付けられました。
 
 ■ファサードを外殻で残す
 本町通りに面して、横浜開港記念館の斜め向かいにあるのがこのビル。
 もとは、昭和5(1930)年に兼松の前身の一つで近江出身の繊維商社「江商」の横浜支店として建てられたテラコッタを装飾に使った建物です。そのビルが、平成7(1995)年に建て替えられて鉄骨鉄筋コンクリートの地上10階、地下2階建てのオフィスビルに生まれ変わりました。
 このビルのユニークな点は、もともとの外壁がそのままきれいに保存されて、新しいビルの外側に殻のように取り付けられていることです。外から見たのではわからないが、中に入ってみると、外装と思われた表の部分は、新しいビルの外壁との間に、1.5メートルほどの間隔をあけて、セットされているのがわかります。

2重の構造、外壁(左)と中の建造物の壁(右)の間に空間があり、一体化して
密着しているものではないことがよく分かります。非常に興味深い活用法です。

 歴史的な建造物の保存・活用されている例はたくさんありますが、取り壊した後に建てられた建造物に密着させるわけではなく、離して外壁だけを分離して取り付けるケースはあまり聞いたことがありません。新築部分と保存部分を喧嘩させないためには、これも一つの方法ということかもしれません。ファサードの保存という意味ではいい方法ですが、手間がかかり、工事の費用もかかります。施主の建物に対する思いがあふれたビルです。
 
 これを復元と呼んでいいのか、修復と呼んでいいのか、あるいは改装と呼ぶべきなのか、呼び方を知りません。新しいビルにすっかり代わってしまうことを考えると、たとえ皮一枚でもこうして残されるということは施主の愛情が感じられますね。ファサードがビルの外壁と並行して独立していることを考えると、見本として残していると考えるべきなのでしょうか。
 
■生きているテラコッタの装飾

玄関回りなどに、テラコッタが装飾に使われていて、旧ビルの雰囲気をよく伝えています。

 平成5年(1993年)横浜市の歴史的建造物に認定されていますが、認定に当たっては、昭和5年の建物を平成7年に復元・・・と記されています。基準からこうした工事は許容されているのでしょう。当然のことながら、ただ新しいビルを建設するのと比べても、それだけ余分な費用がかかることになり、それを負担して復元して残してくれていることには、感謝するしかありません。経済性が優先される中で、その努力は頭が下がります。
 
 本町旭ビルの設計者は不明で、玄関の入り口や前面の縁取りに使われているテラコッタの装飾などから、東京駅や帝国ホテルの設計者として知られるフランク・ロイド・ライトの影響を受けているといわれています。
 現在のビルは鉄骨鉄筋コンクリート地上10階、地下2階のオフィスビル。毎日新聞支社などが入っています。
 2019年、ロイドの建築物がユネスコの遺産に登録されました。このビルもこれを機にあらためて見直されるのではないかと思います。
●所在地:横浜市中区本町1丁目3

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