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読んだ気になっているが読んでいない本シリーズ番外編:1.『椿説弓張月』

『私家本椿説弓張月』 平岩弓枝 新潮社
読んだ気になっているが、実は読んでいなかった本のシリーズに入らない番外の1冊。
・『ガリヴァー旅行記
(角川文庫 ジョナサン・スウィフト著、 訳:山田 蘭)
・『西遊記
(岩波書店全10巻 中野美代子訳)
・『南総里見八犬伝
  (言海書房(上/下) 丸屋おけ八訳)
『水滸伝』
(ちくま文庫全8巻 施耐庵 駒田信二訳)
 
 『ガリヴァー旅行記』、『西遊記』と読んだ後、シリーズ3作目がなかなか決まらない。それにしようか迷って決められない。とりあえずつなぎに、馬琴の『椿説弓張月』を読んでみた。
 伊豆大島に流罪となって死んだ鎮西八郎為朝が、実は生きていてやがて琉球に渡り、王家の内紛で獅子奮迅の活躍をするという、滝沢馬琴の長編小説である。
 
 番外編:というのは、馬琴の「椿説弓張月」の現代語版を読みたいと思ったが、岩波文庫本くらいで、これはわかりにくい。素人にも読めるものをと思ったが、見つけられなかった。努力?が足りなかったか。とりあえずつなぎに読んでみようと探していたけれど、どれも翻案・抄訳のようで、なかなか完全版で現代語訳というのがない。
 
仕方がない、つなぎとして、『私家本 珍説弓張月』(新潮文庫 平岩弓枝)を読んでみた。
 私家本と言うから、現代語訳ではなく、弓張月をネタにした小説という位置づけなのだろう。面白いけど、原本に近いものを読むという趣旨からすれば、これは傍系。平岩弓枝は読んだことがなかったし、これはこれでいいとして、読んでない本のシリーズにはいれずに読み飛ばした。
 学校では「ちんぜい・ゆめはりづき」と教わった気がしていたけれど、「ちんせつ・・・・」だそうです。
 説は、基本は「せつ」ですが、「遊説」では「ゆうぜい」とよみますね。
なので、ちんぜいという読みもある、どうなの?と思っていましたが、
『椿説弓張月』曲亭馬琴・著、 葛飾北斎・画、板坂則子・編 笠間書院1996.01
を見ると、もともとの版本に「ちんセツ」とルビがふられています。


「ちんせつ」が正しいようですね。ちんぜいという記憶はどこで誤って覚えたのでしょうか? 熊本に飛ばされてかち訳し「読みが同じ「鎮西」の「鎮西」事鎮西八郎為朝にかかっている。これは歌舞伎のげ台で多用される、代読みが同じ「鎮西」の「鎮西」事鎮西八郎為朝にかかっている。これは歌舞伎のげ台で多用される、代

と紹介されている。「ちんぜい」という読みは、それはそれで正しいということですね。
 原本の挿画は、北斎。これが素晴らしい。馬琴と北斎は親しかったようで、あの時代の人たちがどのような人間関係であったのか、こんなことも面白い。公開された映画「八犬伝」は山田風太郎原作だが、馬琴と北斎の付き合いがしっかり描かれているようだ。

 話は、源氏の流れをくむ源(藤原)八郎為朝の保元の乱(1156年)からはじまる物語なのですが、迫害されぶりがハンパない。
 八郎が世に出るきっかけとなったのは、弓の技術を高く評価されたこと。崇徳上皇がその話を聞いて興味を持たれ、父・源為義に連れられて、御前で腕を披露することになる。それが気に入らない、藤原道憲(信西入道)は、為朝の有能さが自分への評価の妨げになるとして、弓を披露させずに、弓の名手なら、逆に射られた弓矢を受けることもうまいはずと、信西入道の子飼いの弓の名手に為朝めがけて弓を射させて、受けさせようとたくらむ。無茶な設定ですね。
 …というような場面が最初にあるが、射られた矢を見事に受けきってしまうという離れ業を披露するのだが、上のタイトル画がその場面の挿画。それが信西入道には気に入らない。

 世のため、人のためと考える正直者は、悪さをしていないのに、悪だくみを抱く人間はひたすら攻撃し、抹殺しようとして執念深く繰り返し刺客を送る。
 島流しにされて、次々に遠方に送られ、とうとう琉球まで飛ばされる。どこに飛ばされても有能な為朝は高く評価されるが、それがまた信西入道には気に入らない。で、迫害が続く。こんなことを繰り返させられる信西入道の部下もいやでしょうね。

 この時代そういう権謀術策が横行した世の中だったのでしょうか。
 無能な者ほど攻撃的になる。恥も外聞もなく、自分の利益を優先して他人を傷つけても恥じない。
 正直で有能な人間は、国や国民の将来を考えているので、迫害されても、そういう人間を落とし込むことに関心がない。ところが、能力もなく地位に着いた人間の方は「えらくなりたい・権力が欲しい」だけなので、あらゆる機会を利用して有能な人間を貶めようと知恵を絞り、必死になる。
 こういう悪い人間は、初めからしっかり叩き潰しておかないと、あとあと災難が及んでくる。でも、正直な人間はよこしまな気持ちがないから攻撃しない。攻撃されれば守るだけ。でも、攻撃する方は、あきらめずにこれでもかとしつこいよ・・・という話です。結末はどんなになるか、ネタバレになりそうなので、お知りになりたい方は原本をどうぞ。

 まあ、「椿説弓張月」はそんな迫害の物語のようです。
 平岩弓枝の私家版でした。原本の現代語訳が読んでみたい気もしますが、意地悪される話はいいかな、と言う気もします。
 高島俊男さんによると、これも水滸伝をヒントに生み出された作品のようで、信西入道によるあの手この手の迫害も、為朝の追われ追われての転任もどうやら水滸伝の好漢が受けた迫害がヒントになっているように思える。



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