033.ストロングビル
≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物029/日本大通り≫
*横浜公園の横、大桟橋通りに面して建つストロングビル。かつてのビルがファサードだけでなくそのまま復元されています。
■保存のひとつの姿を提案
横浜公園の東南側、大桟橋に向かう通りに面して建っているのが、昭和13(1938)年に建てられたストロング商会が入っていたストロングビルで、鉄筋コンクリート造地上3階、地下1階のオフィスビルでした。
そのビルが、平成19(2007)年に解体され、平成21(2009)年にダイワロイネット・ホテルとして建て変えられ、低層階に、旧ストロングビルのファサードが復元されました。
以前のビルは1-3階部分にテナントが入居していましたが、いまでも、1-3階はさまざまなテナントが入居し、4階以上(新館)がダイワロイネットホテル横浜公園になっています。
ビルの内装もそのまま踏襲されているようで、1階を入ると、ロビー手前がストロングビル、奥がホテルのロビーになっています。ホテルへはエレベーターで4階にあがり、そこが受けつけになっています。
ビル正面から見ると、2階部分に掲げられていた大きな太い「ストロングビル」の表示がなくなっただけで、かつての状態と比べても、それほどの違和感はありません。1階にテナントとしてコンビニが入居したり、レストランが入ったりして、その看板も掲げられています、違和感を持つ方もいると思いますが、ビルそのものがレトロモダンという感じで、現代にもそんなに違和感をもつものではないために、あまり気にならないのではないかと思います。
こうした変化については、いろいろと意見も言われますが、歴史的な建造物を残すという意味を考えると、行政が買い取って現状保存をしても維持にコストがかかり、それを税金で支出することもなかなか難しいものがあります。
こうした建造物の保護については、方法論を含めていろいろな考え方・方法があります。 解体して跡地の有効利用か、はたまた資産を凍結して現状保存で維持費負担かという二者択一の選択になれば、私的な資産の場合は、好意でしか維持できないのが現状で、難しいものがあります。
このシリーズでもたくさんご紹介してきましたが、解体後に新しい建物を作り、かつての部分を復元しファサードを生かすというのも、保存と活用の境界でぎりぎりの取りうる策として仕方がないというのが実情かもしれません。
■保存・復元と活用をうまく融合
できれば復元ではなく、そのまま流用というのが望ましいが、そうなると内装は大きく変えられたりすることになりますね。このビルは、内装も復元されていて、その意味では、活用と復元・保存という2つのバランスをうまくなじませた例にあげられます。後ろの建てたビルにすっぽりはめ込まれたかっこうで、経済合理性を考えれば、このあたりが限界でしょうか。
この建物は、平成19年(2007年)に横浜市から歴史的な建造物として認定されています。これは解体-復元を条件に認められたもので、この時点でダイワロイネット・ホテル(親企業の大和ハウス工業)が、解体-復元し、歴史的な建造物を維持することを約束したことになります。
ところでストロング商会という会社は、慶応5(1871)年に日本にやってきて営業を開始したG・ストラウス商会の流れをくむ会社で、設計は横浜出身で、このシリーズでもご紹介した、馬車道の旧川崎銀行横浜支店 (002:損保ジャパン日本興亜横浜馬車道ビル)や、旧川崎第百銀行横浜支店(011:前東京三菱銀行横浜支店)などを設計した矢部又吉です。
この建物、昭和13(1938)年に建てられたもので、大理石貼りの半円アーチの玄関上部に筆記体の英文字で「Strong & Co.( Far-East) Ltd.」と以前と変わらず表示されています。ここまで復元してくれたのはうれしいですね。
見たところ、特段の装飾もなく、非常にすっきりした、清楚な感じのビルで、特徴といえば玄関周りと、2、3階の間の水平に入れられたアール・デコ風のラインくらいです。
クラシックなたたずまいに、何やら意味のありそうな入口の左右に置かれた球形の石。 くせのない、イヤみのないデザインといったらいいのか、非常に好もしい感じが残るビルです。
JRの関内駅から中華街に行く場合、横浜公園の中を抜けて、大さん橋通りの信号を超えて右に行き、すぐ角を加賀警察の方に入っていきますが、角を左に曲がる前に、そのまま大さん橋通りを橋と反対側、JRの線路の方に進むと、すぐ左にこのビルが見えます。ぜひ、ほんの1,2分、ちょっと横道に寄って眺めてください。余計な思いを忘れてすっきりした気分で、中華街で食事を楽しむことができること請け合います。
●所在地:横浜市中区山下町204