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052 横浜市イギリス館(旧英国総領事公邸)

《横浜の洋館・山手地区》
■当時のイギリスの繁栄ぶりを彷彿させる

元町から谷戸坂を上りきると左手に港の見える丘が見える。右に行くと外人墓地の前を通って山手本通り。右に曲がらずにそのまままっすぐ進むと、すぐ左に、洋館に続く門とアプローチが見える。横浜市指定文化財の横浜市イギリス館(元英国総領事公邸)である。
隣に山手111番館があり、庭を奥に行くと大佛次郎記念館からさらに日本近代文学館につながる馥郁とバラの香るこころ休まる散歩道だ。
関東大震災後の昭和6(1931)年に、イギリス領事館が大さん橋入り口前(現・横浜開港資料館の旧館)に作られ、その総領事のための公邸として昭和12(1937)年に建設された。鉄筋コンクリート2階建てで、広い敷地と落ち着いた優雅な建物は、大英帝国と呼ばれた当時のイギリスの繁栄ぶりをほうふつさせる。

通りからのアプローチと玄関。装飾はないが、さまざまな形の
窓が印象的だ。来る人に大英帝国の威厳のようなものを感じさせる。

■バラが香るトワンテ山の瀟洒なイギリス洋館
なぜこの場所なのか、ということについては、少し説明が必要かもしれない。
1858年修好通商条約が締結されて横浜港が開かれると、各国政府は公使館などを設け、また一獲千金を目指した商人がたくさん日本にやってきた。時は幕末、尊王攘夷の風が吹き荒れている真っ最中である。幕府は、開港場に入るための関所などを設置するが、しかし、外国人が居留する元町や山手地区には関所はない。
外人排斥の世論の中で、1862年生麦事件や、芝の東禅寺にあったイギリス公使館が襲われるなどの事件が続き、フランスやイギリス政府は、自国民の防衛のためと称して、軍隊を日本に送り、横浜に駐留させるようになる。
当時、フランス軍が駐屯していたのが元町から港の見える丘に至る斜面で、フランス領時間もこの斜面の中腹にあった。そのためここをフランス山と呼ばれるようになった。
そして、イギリス軍が駐留したのが港の見える丘公園から山手聖公会に至る一帯で、駐留した20(トゥエンティ)大隊にちなんで、このあたりはトワンテ山と呼ばれた。イギリス総領事公邸がある、この地にイギリス軍が駐留していたのである。
大政が奉還され、明治政府が誕生すると、次第に世情も落ち着き、軍隊が駐留する意味がなくなったことから、フランス軍、イギリス軍は明治8年には撤退したが、もともと、開港時に外国人用の居留地として長期賃貸契約で土地が貸し出されていたため、イギリス総領事公邸はその後もここに置かれるようになった。
 
設計したのは、開港資料館とともにイギリス政府の工務局上海事務所で、東アジア地区のイギリス公館は、ここが設計建設・営繕を担当している。のちに東京にある英国大使館もここが設計している。国家の機密に関する事項も多く、自国の公務部門が担当するのは当然のことであろう。

1階の大きくとられた応接間。ピアノが置かれていて、コンサートなどに使われている。
奥がサンポーチで、円形の張り出し窓になっている。
応接室のサンポーチを外から見たところ。

■シンプルでありながら印象に残る意匠
建物の北側玄関に向かってすぐ左、2つの小さなガラス窓にはさまれてジョージ6世時代を示す「G R Ⅵ 1937」と印した紋章が付けられている。
建物は領事の公邸なので、公と私の両面用に作られ、1階が「公」、2階が「私」スペースになっている。中に入ってからも同じ印象を持つが、外からの外観が特徴的。過度な装飾を省いたシンプルなデザイン側に通じるといえようか。
装飾といえば、様々な形の窓が印象的で、窓を装飾に活用しているが、それも表と裏では異なる雰囲気で、表(南面)がコロニアルスタウイルで陽・華ならば、裏はバラエティに富んだ窓がありながら落ち着きを感じさせる。窓だけを見ても、なんとも味のある建物だ。
ここは、現在横浜市の文化施設として活用され、市民のコンサートや集会の場として生かされている。

2階への階段の踊り場の明り取り。過度な装飾がないだけに上品で、
カーテンの存在が非常に生きている。

階段室の踊り場の窓が明り取りになっていて大きく、これもシンプルなのだが、開放感がありながらも落ち着きを感じさせて、非常に効果的だ。カーテンが下げられた窓はとても上品だ。
室内も、全体の落ち着いた上品な雰囲気で構成されている。
 
■和のテーストを生かした洋館
建物はほぼ長方形で、2階建て、屋根は入り母屋で洋館とはいえ和のテーストも生かした意匠。玄関を入ると、1階は廊下をはさんで、南面にはサンポーチ、応接室、食堂が配置されテラスが設けられていてに広い庭に出られるようになっている。北側には、事務所、玄関、階段室、厨房が設けられている。いまは、1階の応接室はピアノが置かれて、コンサートなどの会場に利用されている。

食堂。廊下を挟んだ向かいが厨房・配膳室になっている。

■施設概要
・昭和12(1937)年築
所在地:横浜市中区山手町115-3
開館時間 9:30~17:00
(8月の土・日・祝日は18時まで開館)
休館日 第4水曜日(休日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
※12月1日~12月25日は無休
入館料 無料

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