007.KITANAKA Brick south(旧帝蚕倉庫事務所)
≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物007/本町通り周辺≫
*生糸検査書にも使われた帝蚕倉庫を管理する事務所棟として建てられました。
いまはKITANAKA Brick southと名称がつけられ、テナントビルとして使われています。
■今はない帝蚕倉庫をしのぶ
生糸検査所とともに大正15年(1926年)に建てられたものです。生糸検査所のための倉庫棟が4棟あり、一番小さかったこの1棟は倉庫群の商品を管理するための事務所棟として使われたものでした。設計は、生糸検査所(006)と同じ遠藤於莵(おと)です。
作られた当時は、生糸検査所(現横浜第2合同庁舎)と、帝蚕倉庫の間にありましたが、帝蚕倉庫がすべて取り払われ、結局、この事務所棟だけが歴史的な建造物として残され改装されて、倉庫跡に作られたKitanaka Brick Northと2,3階で連結され2020年に完成しました。
3階建ての建物の外装はレンガのように見えますが、鉄筋コンクリートの上に、柱の部分に半分の厚さのレンガをタイルのように張り付けたもので、レンガ造りではなくレンガ貼りです。柱ではない凹部はコンクリートがむき出しになって、赤いレンガとコンクリートのグレイのコントラストがツートンカラーのような外観のアクセントになっています。
外から見ると、張り出している部分に赤いレンガが貼られているために、その部分の印象が強く、見た人にレンガ造りの建物、という印象を与えています。それを狙った意匠と考えれば、これはこれで面白い。レンガは長辺をヨコに並べた長手積みの形になっています。
■現役で使われている事務所ビル
大正15年といえば、鉄筋コンクリート造りが実証的にも認められだして、建材として大いに利用され始めた時期です。遠藤於莬(おと)も、すでに何棟かの施工経験を持ち、またレンガ造りの建物も何棟か経験しています。
そうした経験をもとに、鉄筋コンクリートづくりの堅牢性という実利面と、赤いレンガという素材のデザイン面の両方の特長を生かし、いいとこどりをしたベテランらしい意匠です。時に遠藤於莬60歳。酸いも甘いも噛み分けた円熟したクリエイターの作品と言っていいでしょう。
この事務所や倉庫は生糸検査所での検査を待つ生糸用の倉庫とされていますが、同時に、平成のはじめまで帝蚕倉庫株式会社の倉庫として横浜港で輸出入される商品をあつかっていました。
帝蚕倉庫に収納されていた商品は、いずれも値の張る高級品で、この倉庫では、単に一時保管を行うだけでなく、日本の市場に出る前の流通加工、つまり、仕分け・分別・小分け・ラベル張り、梱包などの作業も行われていました。この建物はそうした管理業務をおこなう事務所であったわけです。
この一帯の地域開発もいち段落し、第二合同庁舎とザ・タワー横浜北仲、KITANAKA Brick」にはさまれて残ったクラシックな赤レンガのビルから、100年前の帝蚕倉庫華やかな時代を思い起こしながら見ていただくといいかもしれません。
●所在地:横浜市中区北仲通5-57-2