2-2.100万円儲けたという経験は、その人の10億円儲ける経験にはならない。しかし、1000万円損した経験は、100億円儲ける経験になる。
日本化薬元社長 原 安三郎
原は昭和一〇年から日本化薬の社長を勤め、その一方で多くの企業の再建指導に当たり、再建の名人といわれた財界の指導者である。
経営者が犯しがちな失敗は、ある一つの事業に成功を収めると、その経験をもとに別の事業を今度は規模を大きくして始め、コケるという失敗である。
成功した経験が、必ずしもさらに大きな事業に生きるとは限らないということだ。失敗と成功、どちらもそこから多くのものを学ぶことができるが、成功の経験は同じことを繰り返す時には役立つが、失敗の経験は他のことをやるときに役立つということである。
こんな話がある。
同業でライバル関係にあるA社とB社が同じような商品を同時に開発し、市場に投入した。しかし、両社とも売れ行きは良くなかった。
そこで両社は、消費者調査を行い、その結果を参考に商品に改良を加えていきたいと考えた。その調査が対照的であった。
A社は、その商品を購入したお客さんを対象に、「わが社の商品を購入した理由は何ですか?」と聞いた。一方、B社は、その商品を購入しなかった消費者を対象に、「わが社の商品を購入しなかった理由は何ですか?」と聞いた。
両社はこの結果を参考に改良商品を開発したが、それで高いシェアを獲得したのはB社であったという。原の言葉に通じるような話である。
日本火薬は、戦時中も軍用の火薬を作らず、産業用の火薬に特化していた。そのため、原は戦後も追放を受けず、貴重な人材として戦後の産業界の復興に大きく貢献した。
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