099.グローバルなイノベーションを起こすために
これまで私たちは、多くの文化や技術を欧米始め、多くの国から学んできました。そして、欧米も、アジアのもつ異質さ、その価値観に目を向けようとしています。
いまやIT技術の高度化によって、空間的な距離をものともせず、コミュニケーションすることを可能にしてきました。また輸送機器の発達によって、物理的な移動も、つい60年ほど前までは東京から大阪へ出張するのに8時間もかかり、1泊が必要だったことさえ信じられないほど手軽になりました。
距離という障害が亡くなり、また、国境という障害が開かれるようになったいま、市場は国内より、国外を包含して広大になっています。そんな時代には企業の思考・行動範囲もよりクローバルなものが求められます。
1978年、鄧小平が中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議で打ち上げた改革・開放政策を受けて、安価な労働力を求めて、多くの国の企業が中国に進出し、ものづくりの場が国内から海外に移動しました。中国の開放政策に刺激されて、多くのアジアの国々でも改革が進められ、ものづくりの現場は滝つぼに水が流れ落ちるように、アジアへと移っていきました。
そうした国々では、産業の発達とともに、給与所得者が育ち、いまや、製造の場としてだけではなく、購買力を持った消費市場として重要な意味を持つようになりました。大きなマーケットをもつそうした国々と良好なビジネスを展開するためには、お互いの理解が不可欠です。
アメリカも、ヨーロッパの国々も、もともと海外からの移住者が多く、あらゆる世界で、いわば異文化を持った人たちが、活躍しています。アメリカの企業を訪ねれば、事務所にいる人材の半分は、ヨーロッパ出身だったり、南米、アフリカ出身だったり、あるいはアジア出身だったりします。そうした人材がせめぎ合っているのがアメリカ社会です。
またヨーロッパも同様です。ヨーロパは元々地続きで、人材の交流は活発でした。西欧の国々にも東欧の人材は溢れ、植民地を持っていた過去からアフリカ、南米、中東、アジアの人材もかなりの比率で住んでいます。さらに、いまはEUが域内の人材に国境を開放していますから、EU加盟国の企業の事務所は異文化人材の宝庫と言ってもいいでしょう。海外の企業では、多くのグローバルな人材がグローバルな市場をめざして戦略を検討し、活動を展開しています。
ひるがえって、日本を見ると、日本の企業では事務所にいる人材は、最近は変化したとはいえほぼ100パーセント日本人です。企業は海外進出をめざしてグローバル戦略を立案し、盛んにグローバルを対象にした商品を開発し、マーケティング活動を展開しています。
グローバルな市場をめざして・・・と言いながら、日本の企業で戦略を検討するのは日本人ばかりです。果たして、こんな状況で本当に日本の企業は海外の企業とグローバルな市場で競争できるのでしょうか?
いま、日本ではさかんにグローバル人材の育成が叫ばれています。日本の国も、海外に門戸を開き、人材の交流を進めるために、留学生の誘致を進めています。文科省が進める目標は、2020年に30万人の留学生を招へいすることですが、さまざまな施策によって、2013年に18万人だった留学生数は、2016年には、20万人を突破しています。
日本で学ぶ留学生数は順調に増えているのですが、残念なことに、そうした留学生の多くが日本で働くことを希望しながら、30パーセントほどの人材が、就職先が見つからずに他国で就職したり帰国してしまったりしていることです。
せっかく優秀な人材が日本の企業で仕事をすることを望みながら、受け入れる企業がないのです。理由は、日本語を十分に理解できないから、あるいは、外国人を雇用しても、彼らの能力を発揮してもらうことができないから。わかりやすく言えば、文化と価値観の違う人材は社内のトラブルのもとで、逆にこれまでのやり方が侵され、問題が生じるため、敬遠する・・・というわけです。
イノベーションとは異質な価値観がせめぎ合う所から生まれるのだと思いますが、異質な価値観のぶつかりを、マイナスとして避ける文化が日本の企業にはあるのですね。これを克服しないと、これからのグローバルなイノベーションはなかなか起こせないのではないかと思います。
多くの価値観のせめぎあいと、高度な頭脳がまじりあう所から、新しいイノベーションは生まれます。優秀な頭脳と異なる文化・価値観を持った留学生を、今後、いかに日本の企業に取り込めるか、ITの進歩で、ますますグローバル化が進むなかで、新しい時代にリーダーシップを発揮するために、不可欠な要素ではないかと思います。