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2-16.無借金経営はハングリー精神を弱める。
堀場製作所会長 堀場雅夫
即断・即決をやろうとすると、決定権を自分の手に入れたくなるものだ。
金の工面を銀行と相談して……などとやっているうちに時機を失してしまう それならば、銀行のお世話にならなくてすむように、無借金経営にして自社で自由に意思決定できるようにすればいいと、誰しも思うだろう。
表題の言葉の主、堀場雅夫は、昭和20年代に無一文でスタートして以来、常に資金の工面で苦労を重ねてきた。測定器一つ購入するにも、銀行に日参しなければならない時代があった。銀行ではいつも、どんなに説明してもそんなのうまくいくはずがない、とクソミソに言われた。
だから何とか無借金経営にして、資金繰りから解放され、意思決定も迅速にできるようにしたい……それは堀場の念願でもあった。
そうすれば、役員会で決定したことが邪魔者なしに100パーセント実行できるし、経営も健全になる。ベンチャー志向の強い会社だけに、それまでにないまったく新しい商品開発の企画も多く、外部に漏らしたくないという事情もあった。
そんなこともあって、株式の上場を果たし、株を時価発行した時は、堀場には格別の思いがあった。「これで、資金面の自立を果たすことができる!」という感慨であった。
ところが、それを実現した今、堀場は逆に「無借金経営は、企業にとって必ずしもプラスではない」としている。なぜか。堀場は言う。
「恵まれてきたために、安堵感が生まれてくる。測定器を買う時、以前なら頭を下げて借りなければならないから『もう少し安くならないか』『5台でなくて3台で間に合わないか』などと議論しました。ところが、今は予算の範囲なら自由となって、ハングリー精神とか、モノの考え方のシビアさが希薄になってしまった」
無借金で経営の自由を得たのはいい。のびのびと開発できるようになった。
堀場は、そういうメリットは認めた上で、逆に、企画をギリギリの予算でも何とか成功させようとする精神が弱まっているのではないかと心配しているのである。