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1-6.監査役は閑散役といわれているが、わたしは徹底的に監査を行った。

1-6.監査役は閑散役といわれているが、わたしは徹底的に監査を行った。
  トヨタ自動車元会長 石田退三

 前例がない新しいことに挑戦するというのは、ある意味で原理原則や常識に従う、当たり前のことを行うということにも通じるのかもしれない。
 石田退三は豊田自動織機に在職中、会社の不合理に対して歯に衣着せぬ主張をしたり、トヨタ自工の発足にも大反対したりしたために、昭和十一年に豊田紡織の監査役にまつり上げられてしまう。
 普通ならサラリーマン生命はそれで終わりと見るべきだが、石田はそれでは終わらなかった。
「定款を見ても、監査役は会社の業務を正当に監査するのが役目と書かれている。そこで、ワシは監査役という言葉を素直に解釈して、容赦なく社内を監査して歩いた。社長が何を言おうが、委細かまわずに監査を続けた。監査役だといってくさったところで始まらん。どんな仕事でも、自分の力を伸ばし前向きに努力しておれば、神風はいつか吹いてくる」というのが石田の考えであった。

 監査役だから不合理を追求するという道理も通っている。大義名分をふりかざして真正面から堂々とやってのける実行力は石田ならではのものだ。そして、石田が言うように神風が吹く。五年ほどで、再び自動織機の常務にカムバックするのである。
 石田退三は戦後、トヨタ自動車の社長として一時代を築く。もちろんそれだけの力があったわけであるが、しかし、実力だけではない何かがこの石田退三のケースにはある。神風は吹くのではなく、吹かせるものだという強い意志がそこに感じられるではないか。
 石田退三を不死鳥のごとくカムバックさせたのも、おそらく、私利を捨てて、会社を良くしたい、自分を成長させたいという気持ちになり切ったことが大きいのだろう。
 正しいことを行うには、知恵と行動力が必要だが、その前提は志(こころざし)だ。

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