「空飛ぶサーカス」002.ライオン使い財宝を掘り当てる
サーカスには10匹のライオンがいました。調教師の名前はレオナルドです。ドイツの南にあるバイエルン地方の出身で、本当はレオポルドという名前なのですが、サーカスの仲開たちは彼のしゃべりかたがスペイン人のように聞えるというのでスペイン人のようなレオナルドという名前で呼んでいます。
でも、このことはサーカスのひとたちだけの秘密です。というのは、プログラムに、
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= スペインの猛獣使いの名人・レオナルド =
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と書いてあるからです。そのレオナルドが本当はドイツ人だなんていうことが知られると、サーカスは信用がなくなるでしょう?
さて、このプログラムもスペイン人というウソを除けば、あとはすべて本当のことです。つまり、レオナルドは正真証明のすごいライオン使いの名人なのです。10匹のライオンを引き連れて彼がやる演技は、他のどんなサーカスもまねができないような、それはそれはみごとなものでした。
他のサーカスがやるような演技、たとえば、火の輪くぐりや、後ろ足で立って歩くなんていうのは、レオナルドのライオンたちにとってはやさしくて朝めし前の演技でした。彼らはもっとむずかしいことがたくさんできましたが、なかでももっとも得意とするのが、ライオン・ピラミッドです。
ライオンの上にライオンが上り、その上にまたライオンが上る。10匹のライオンが肩ぐるまして重なった後、最後のてっぺんにレオナルドが上り、ムチをひゅうとひとふり、この演技はサーカス一の人気プログラムで、いつも観客をわかせていました。ファンにも大人気のだしものだったのです。
さて、サーカスがある村にやってきた時のことでした。
村の中央に、古くて立派な教会がありましたが、塔のてっぺんにある風見鶏がこわれて、修理をしなくてはならなくなっていました。しかし、塔に上る階段もこわれていたため、だれもてっぺんまで上ってゆける者がいなかったのです。しかたなく、町長は風見鶏を下までおろした者に賞品を出すことを約束しました。
賞品がもらえることを聞いて、何人かの勇気ある人たちが名乗りでて塔登りに挑戦しました。
しかし、だれも無事にてっぺんまでたどりつくことはできませんでした。階段を登ったり、体にロープをまきつけてボルダリングのように挑戦したりしましたが、そのたびに階段がくずれたり、ザイルが切れたりして、みんな失敗して骨を折ってすごすごと引きあげていったのでした。
そんな時に町にサーカスがやってきたのでした。
風見鶏を下に下ろしたら商品が出ることを知ったレオナルドはライオン・ピラミッドを使って風見鶏をおろそうと考えました。そしてとうとうある日、10匹のライオンをつれて塔の前にやってきたのです。
村の人たちは、教会の回りにたくさん集まってきました。こんなにすごいサーカスの演技が、しかもただで見物できるのです。警察は、ライオンが村の人たちをおそわないように教会の周囲に柵をつくりました。
レオナルドは、塔の横でライオンたちに得意のピラミッドを作らせました。そして、いつものようにてっぺんのライオンにまたがると、ひゅう!とムチをひとふり。そこでひときわ大きく「そーれッ!」と声をかけました。
すると、てっぺんにいたライオンがレオナルドを背中にのせたまま、ぴょーん!と教会の屋根を目がけて飛び移りました。ライオンが塔の屋根に飛びついた瞬間、塔は、ゆら、ゆら、といまにも倒れそうに揺れました。しかし、うまいことに、塔は倒れませんでした。
屋根に飛びうつったレオナルドは、そこでライオンの背中から下りると、先端についている風見鶏をはずしにさらに上っていきました。風見鶏はすぐにはずれました。取付けてあった足がさびて、はずれそうになっていたのです。
風見鶏を脇にかかえたレオナルドはふたたびライオンの背中にまたがり、ライオンの首筋をひとなでしたかと思うと、もう一度、勢いよく「そーれッ!」と声をかけました。
ライオンがねらいすましてジャンプすると、こんどは見事に最初につくったライオン・ピラミッドのてっぺんへと飛び移りました。ライオン・ピラミッドはその瞬間ユッサ、ユッサと揺れましたが、倒れることはありませんでした。
教会を取り囲んで見物していた村の人たちは、息をのんでじーっと見つめていました。レオナルドがみごとに成功したことに気がつくと、手をたたき、口々に“ブラボー、ブラボー”と叫びながら盛んに拍手しました。
レオナルドはやがてライオン・ピラミッドからしずかに下りました。つづいてライオンも上から順番に下ります。ならんで拍手にこたえた後、レオナルドはライオンたちを引き連れて町長の家へ賞品を受け取りに向いました。
そうそう、大事なことを話すのを忘れていました。町長が用意していた賞品は何なのかということです。
むかしの話だと、たいてい、こういう場合の賞品は王様の娘、つまり、お姫様ということになっていますが、現代ではそうはいきません。
第一、レオナルドはもう結婚して、ちゃんと奥さんもいるのです。だから、レオナルドがもらったものも、当然お姫様ではありませんでした。
ではいったい何をもらったのでしょうか?
ここだけの話しですが、実は村にはいへんな宝物が埋められていたのです。宝物のことを発見したのは、村の新聞でした。その新聞によりますと、宝物はずっと昔、魔法使いとして死刑にされようとしていた一人のホウキ作りの女が埋めたもので、彼女は火あぶりの刑をうまく逃れて、宝物を隠したまま死んだ、というのです。
新聞には、宝物が隠された場所についても書かれていました。
それは、村の広場の真中にたっているカシの木の下でした。ただ、その宝物には、
「千年たってからでないと掘り出してはいけない」、
さらに、
「掘り出すことができるのは満月の日で、村の英雄でなければならない」
と書かれていたのです。
レオナルドの成功はちょうど千年目のことでした。そして、町長は教会の塔のテッペンから風見鶏をおろした者に、その宝物を掘りおこす権利を与える、と約束していたのです。
いまや英雄になったレオナルドは、満月の日が来るのを静かに待っていました。むかしから宝物を掘り出すのは、満月の夜と決められていたからです。
さて、滴月の夜。レオナルドは魔法使いのパパゲーナを連れて、ふたたび村にやってきました。そして、2人は月の光に照らされながら、宝物をめざしてカシの大木の下を掘りはじめたのです。
どのくらい掘り進んだでしょうか、やっとスコップの先に、コツンと何か固い物が当る音がしました。そして、なおも掘ってゆくと、箱のようなものが現われてきました。その箱には鍵がかけられていましたが、幸いなことにかぎはかぎ穴に入ったままになっています。
いったい何がはいっているのか、二人はドキドキしながらふたを開けました。
ところが、中には何も入っていませんでした。
レオナルドとパパゲーナはしばらくの聞、気が抜けたように見つめあったままでした。その時、急にまわりが明るくなりました。
気がつくと、月がカシの木によりかかってパイプをすっています。月は愛用のパイプを口から離して言いました。
「レオナルドにパパゲーナ、がっかりすることはないよ。宝物は、もうずいぶん前からなかったのさ。ここにあった宝物は、教会の塔の風見鶏の賞品に決めるずーっと以前、町長が自分で掘り出してしまっていたのさ。ある満月の夜のこと、私がちゃんと見ているのも知らずにね。」
そういうと月はパイプをズバズバと喫いました。
「ただ、町長はずいぶんあわてて掘り出していたようだから、何か見のがしたものがあるかも知れない。もう一度箱をよく確かめてごらんよ。千年前に、あのきれいなホウキ作りの娘が埋めた時も見ていたけれど、そのときは、町長が掘り出したよりももっとたくさん入っていたようだったよ。」
そういわれてレオナルドとパパゲーナはもう一度箱の中を確かめてみました。月は箱の中が見やすいように明るく照らしていました。
よく見ると、箱は二重底になっています。月の言葉は本当でした。二人は底をはずしてみました。中には、一本の黒い杖ときれいな字が書かれた一枚の羊の皮が入っていました。羊の皮には次のように書かれていました。
魔法を知っている者は、
世界を正しくすることができる。
間違ったことをあらため、
すべてを正しくおさめることができる。
ところが、わたしがいるこの世界では、
魔法をつかうことは許されない。
だからわたしは魔法の杖をここに埋めよう。
もし、望むなら、
これを見つけた者はこの杖で魔法をつかうことができる。
さあ、ここにあるものを取りなさい。
おまえがこれを掘り出すときは、
魔法使いが歓迎される、
そんな時代になっているにちがいない。
「おどろいた、魔法の杖だって。 パパゲーナ、どうやら宝物はキミにふさわしいもののようだよ。これは君がとっておいたほうがいい」レオナルドは言いました。
「でも、それはあなたのものよ! 教会の塔の風見鶏をおろした英雄はあなたで、私じゃないわ!」パパゲーナは言いました。
「魔法の杖といっても、僕が持っていたって何の役にもたたない。だけど君ならそれをうまく使うことができるだろ?」レオナルドがなおも言いました。
「これこれ、2人ともなにを言いあいなんかしているんだい! だれかが魔法の杖をプレゼントしようとして、それがやっと千年ぶりにかなうのだよ。言いあいなんかしている場合じゃないのではないかい?」
2人のゆずりあいを聞いていた月が、見かねて笑いながら言いました。
「よしよし、ではこうしよう。魔法の杖はパパゲーナがもらいなさい。そのかわり、レオナルドにはこれから何かがあったとき、私が力になってあげよう。助けが欲しい時は、いつでも私を呼ぶといい!」
「それはいいなあ。それに、魔法の杖をあげても、僕にはまだ空の箱が残っている。この箱は、子供たちがきっと喜ぶよ」そういいながら、レオナルドは箱を持ちあげてゆすりました。すると、まだ中でコトリと音がします。
「おや、この箱にはまだ何か入っているらしいぞ」そういいながら、レオナルドとパパゲーナはもう一度、箱の中を確かめてみました。すると、なんと驚くことに二重だとぱかり思っていた箱の底は、三重になっていたのです。
2枚目の底を外してみると、中に時計が一つと、同じように文字が書かれた羊の皮が入っていました。
羊の皮には、次のようなことが書かれていました。
この時計は魔法の時計。
その気になれば、
時間を止めることができるし、
時間を飛びこすこともできる。
また、未来の出来事を知ることもできるし、
過去にさかのぼったり、
ゆっくり進めたりすることも思いのまま。
使い方さえ知っていれば、時間はおまえの自由自在だ!
魔女のパパゲーナはちょうどいいことに、こうした魔法の道具についてよく知っていました。だから、この時計もレオナルドはパパゲーナにゆずりました。
「パパゲーナ、しっかり注意することを忘れてはいけないよ!」月は言いました。「もしこの魔法の時計が悪い人間の手に入ったりしたら、大変なことになる。この時計を使ってお金持ちにもなれれば、また逆に、大変な災いもたらすこともできるからね」
「どうして?」パパゲーナがたずねました。
その答はありませんでした。パパゲーナが顔を上げたときには、月はもうそこにいなかったのです。月はふたたび空で輝いています。
「さあレオナルド、もう帰りましょう。宝探しはこれでおしまいよ」パパゲーナはいいました。「私達には、魔法の杖と魔法の時計と空っぽの宝の箱があるわ。これだけあれば世界中のサーカスがやったことがないような演技だってできるわ!」
「そうだね、パパゲーナ。でも、町長はけしからんなあ!」レオナルドが言いました。
「本当ね!」とパパゲーナ。「でも、しばらくそっとしておきましょう。こういうことをした人は、私たちが仕返しをしなくたって、いつか、必ず後悔するようになるものだから」。
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